第77話「わたくしが参ります」


 さて、尋問ですね。


「お、おいジン! このお嬢さん方をどうにかしてくれぃ!」

めさせたきゃ早く喋れよアドの旦那! 俺だって一緒に縛られてんだからよ!」


 やっぱり仲良さそうですね。

 いつの間にかお互いに名前で呼び合ってますし。


 レミちゃんはワキワキと指を動かし魔力のヒモをキツく締めたり少し緩めたりを繰り返し、リザは戦斧をアドおじさんの眼前スレスレで振り回し続けています。

 二人とも無言でそれを繰り返してるんですよ。



「リザちょっと疲れてきてるからね、フラッときてザックリいっちゃうかも」


「ほらぁ! 早く喋れよおっさん! 俺だって怖えんだからよ!」


 背中合わせで縛られたジンさんが急かします。他人事ではありませんから必死です。


「わ、分かった! 喋る! だからせめてその斧を下ろしてくれぃ!」

「なんでぇ、けっこう簡単に口割るんじゃねえか」


Tromperとんぺえ野郎! 武人として死ぬなら本望だが、これで死んではあまりにも情けないではないか!」


 まぁ分からなくもないですね。

 女の子が振り回す斧にうっかり当たって死んだんじゃあね。


「武人のクセに主君をあっさり裏切るのもどうかと思うぜ」


「主君……? ジフラルトの事か? 別に主君などではない。偶々ヤツがに選ばれたゆえ従っているに過ぎん」


 ああ、なるほど。そういう感覚なんですね。

 けれどそうかも知れませんね。突然友人や同僚、部下が魔王になる事だってあるのでしょうから。

 同じコルト一族でも、元々ジフラルトの執事だったフルやレダとは異なるということですね。



 レミちゃんの魔力のヒモからジンさんだけは解放し、と頭突きのダメージをリザが癒します。


「精霊よ――……癒せ!」


 パァッと輝くマナの光があっという間にジンさんを癒していきます。


「お! こりゃ凄え! レミやアレクの癒しの魔術ヒールよりも断然強え!」


 僅かにですがバフさえ与える一級品の癒術ですから。

 アドおじさんも癒して欲しそうですが、とりあえずは無しですよね。



「じゃずはこの侵攻の目的からお願いね」


「それはdeuxんどぅある。uneゆぬはそこの――不可思議に美しい容姿のトロルの姫を連れ去ること」


 二つある目的のうちの一つはフルが言っていた通りですか。どうやら本当にリザにご執心らしいですね。

 白状したアドおじさんもほんのり頬を染めていますから、割りとリザがタイプのご様子です。


「もうuneゆぬは――アイトーロルにある女神ファバリンの大木をへし折る事だ」


 ……え? 私のあの木……ですか?


「女神ファバリンが宿ると言われる物は各地に存在するらしい。けれどフルが言うにはな、どうやらトロルの国、アイトーロルのそれが本命だと言うのだ」


 あぁ――、そうですか。

 この間、魔の棲む森でフルに私の姿を見せたせいでしょうね。


 『上品なマダム』なんて言ってはくれましたが、どうやら「トロルの変身」と「ファバリンの伝説」と、そして「私の小さな姿」を見た事でピンと来てしまったようですね。


 それを聞いた四人は顔を見合わせて、頷き合ってさらに尋問の続きを促します。


「じゃあ次! なぜ魔物の群れの襲撃はこんなに中途半端なの?」


「それも単純だ。今のジフラルトの能力ではそれが精一杯だからだ」


 そこからちょっと長かったので要約しますね。


 一部の魔族は魔物を産み出す特殊な力を持っています。

 ジフラルトは魔王の種を得ることによってその力を手にし、そしてその力を育てる為に、このマナの濃い魔の棲む森で魔力を回復しながら魔物を産み出し続けているそうです。


 現れる魔物の力が徐々に強まっているのは、ジフラルトのその力が少しずつ強力になっていたからなんですね。



「うーん。という事は待ってるよりもこっちから攻め込んだ方が良いかな?」


「そうかも知れん。しかし俺様のようにジフラルトについて来た魔族があと三人いる。それも同時に戦うことになるだろうな」


 すっかり親切なおじさんと化したアド・コルト。他種族だからって蔑んだりもしませんし、根は凄く良い人なのかも知れませんね。


「えれえ親切に教えてくれるじゃねえの」

「貴様らは強いからな。人族であろうがトロルであろうが、強者には敬意を払う、それが俺様のmanièreまにえぇぇる!」


 それがアドの流儀……立派ですね。魔族であってもその思想をお持ちなのでしたら、ロンと仲良くなっていても良さそうですのに。



「じゃもう一つ! キショ――じゃなくってフルはどうしてるの? もう元戻った?」


「ん? フルの奴はだ」

?」


「北ネジェリック山脈での捕獲だ。十年振りなんだとさ」


 …………


「はぐれ魔竜の捕獲……ですか?」


 私と同じ嫌な予感、それを抱いているらしいリザが問い掛けました。


「ああそうだ。フルだけのあの、核さえ無事なら良いという特異能力を使ってな、割りと簡単に捕まえられるらしい」


「それが……十年、振り……?」


 嫌な予感というより確信ですね、これは。


「だそうだ。十年前もフルがはぐれ魔竜を使ってアイトーロルを襲ったらしいからな」


 ジフラルトの手によるもの、とロンから聞いてはいました。

 けれど、あのキショ香ばしいフル・コルトが実行犯だったなんて――。


「そ、それではいつ頃アイトーロルへ――!?」


「いつ頃、か。そこの勇者に切り刻まれて戻ってきて、それから割りとすぐに山へ向かったから……正確には分からんが明日くらいにアイトーロルじゃなかろうかな」


「――!」


「みんなで魔竜に当たろう!」


「お、おい、ここはどうすんだよ」


 ……ここもじきに魔物の群れが殺到する事は間違いありません。

 けれど、トロルナイツだけでは蹂躙されるのも間違いありません。


 取れる手段は……戦力を分けるしか……


「わたくしが……わたくしが参ります!」

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