第76話「ジン、一騎討ち」


なの?」


「俺様の名は! アド・コルト! しかしなんでコルトだと分かった!? Pourquoiぽーこわ!?」


 Pourquoiぽーこわは、何故? ですね。


「どことなくフルに似てるからさ」

「そっ、そうか!? へへっ、フルの奴と俺様が似てるってか? ふへへっ」


 額の上部に角のある、アド・コルトと名乗ったいかつめの魔族は、そう言って嬉しそうにはにかみました。

 ちょっと香ばしそうな雰囲気は似てますけど、綺麗めなフルとは顔やスタイル全然似てませんよ、なんて言ったら怒られそうですね。



「で? アドおじさんが俺らの相手してくれんの?」

Pourquoiぽーこわ! なぜ俺様がフルの伯父だと分かった!?」


「……なんとなく、だよ」


 ジンさんは伯父のつもりで言ったわけではないようですよ、アドおじさん。


「まぁそんな事は良いじゃねえの。とっととやろうや」


「うむ、その意気や良し。まとめて相手をしてやろうではないか!」

「舐めんじゃねえ。俺一人で充分だっつうの。手ぇ出すなよオメエら!」


 言うや否や、ジンさんがアドおじさん目掛けて丘を駆け降ります。

 アレクが何かを言おうとしましたが、肩をすくめて諦めたよう。


「じゃ僕らは魔物を担当しよっか」



 アレク達のいる丘と森の入り口との中央あたり、そこでぶつかり合ったジンさんとアドおじさん。

 アドおじさんの後方に待機していた魔物の群れは、二人を避けつつ丘へと殺到します。


「リザ! ジンの壁なしだから忙しくなるよ! 気をつけて!」

「ええ! 望むところです!」


 二人はそれぞれが魔物へと当たり、時には立ち位置を替え、また時には背中合わせで魔物を屠っていきました。


 良いですねぇ。そういうの私の好みですよ。

 少し下がって援護するレミちゃんがなんだか羨ましそうに眺めていますね。


 ごめんなさいね、ロンへのバフも強かったらご一緒できたんですけどね。


 ところでジンさんは平気でしょうか?



「こ、の……クソオヤジが! けっこうやるじゃねえの!」

「人族の割りになかなかやるじゃないか! ガハハハ!」


 お互いに繰り出したパンチがかち合って弾ける様に距離を取り、お互いがお互いの実力をたたえていました。

 なんだかアレですね。

 戦いが終わったら仲良くなってたりしそうな二人ですね。


 でも実際に良い勝負のようですよ。

 アドおじさんはガードもせずにジンさんのパンチを頬で受け、それを背筋で堪えてパンチを返し、それをまたジンさんも頬に受けますが同じく堪えてみせました。


 それを何度も繰り返してお互いに少し膝を震わせつつも、倒れるならばせめて相手が倒れてから、とでもいうような我慢比べを楽しんでいるかの様です。


 ジンさんは身体強化も身体硬化も当然使っています。素のアドおじさんの強さがよく分かるというものですね。



「そいつは抜かねえのかよ」


 少し目を回したジンさんが、クイッと顎でアドが腰に下げた剣を示します。


Tromperとんぺえ野郎! 馬鹿とんぺえな事言うな! 無手の相手には無手、それが面白いんだろうが。貴様もそう思うだろう?」


「――思わねえよ。俺はな、全力の相手には全力、それを面白いと思う奴なんだよ。だから抜け」


「ぶ、Bravoぶらぁぼぉう! ならば心配するな。俺様は剣士ではない。こんなものはな――」


 剣を鞘ごと引き抜いて、アドおじさんがそれを後ろへ放り捨てました。


「――こうしてやるのよ! 俺様の全力はコイツよ!」


 両の拳を握りしめ、それをジンさんへ突き出して示してみせます。


「なら安心だ。おう、とことんやろうぜ」


 ジンさんもニヤリと笑んでみせました。


 再び二人は戦い、というより、に突入しました。


 コルト一族にも色々なタイプがいらっしゃいますねえ。





「もう少しだよ! リザ頑張って!」

「アレク――こそ! 油断禁物ですわ!」


 リザの事に注意が行っていたアレクの背後、ひっそりと近付いていた虫型の魔物へリザが風の刃を飛ばしてその首を刎ね飛ばします。


「――リザ! ありがと!」

「うふ、いつでも助けますからね――、せぇいっ!」


 アレクへ一つ微笑んで、リザはまたすぐに戦斧を振り回して魔物を一匹切り裂きました。


 こちらは連携も上手く機能し始めましたしなんとかなりそうですね。



 そうなりますと、やっぱりジンさんの方が気になりますね。

 と思って意識をそちらへやると――


 ごつぅぅぅん! っと盛大に鈍い音が轟きます。


 そして、ふらり、ふらりふらり、と千鳥足の二人が同時にバタンっと仰向けに倒れました。


「……オメエ、良い石頭してやがんなぁ」

「貴様も……な」


 開いた口が塞がりませんが、これはこれで、なんと言うか……異種族間の友情が芽生えた、的な、そんな――


「もう良い」


 一言だけ呟いたレミちゃんが、かつてアレクをふんじばった魔力のヒモで一緒くたに縛り上げました。


「「Pourquoiぽーこわ!?」」


 二人は『なんで!?』なんて言って納得いかない様ですが、さすがはレミちゃん、やっぱりそうなりますよねぇ。

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