第75話「はい来ました」
「リザ、どう? 少しは休めた?」
「ええ、もうすっかり大丈夫ですわ」
一回目の魔物の群れの猛攻を凌ぎ、アレクとリザは座って少し休憩中。
ジンさんは一人で黙々と、少し離れたところで地面にパンチを放って抉り、今度はさらに魔物の死体の山へ向けてパンチを繰り出し吹き飛ばします。
吹き飛ばされた死体は大きく開いた地面の穴へどさどさどさと放り込まれ、仕上げにレミちゃんが魔術を使って土を上から被せます。
とりあえず一陣目の魔物の群れの処理はこれでオッケーですね。
「倒すだけなら良いけどよ、片すのは面倒だよなぁ」
「片す、ダメ。弔う」
そして二人並んで手を合わせて祈ります。
そうそう、そうですよ。
こう見えてもレミちゃんはシスター、ジンさんは武道僧、ファバリンを祀る教会の信徒ですからね。
魔物であってもキチンと弔ってあげなきゃね。
なのに
「……つっ――」
「リザ!? どっか怪我した!? 僕に見せて!」
どうしたんでしょう?
誰も怪我をした素振りはなかったですけど……。
「違うんです、ちょっと……全身の筋肉痛が……」
「筋肉痛? え? 斧重いの?」
「そんな事もないんですけど……どうしてかしら」
リザはそう言って、隣に寝かせていた戦斧を片手で持ち上げてみせますが、ヒョイっと簡単に持ち上がりました。
「バフが掛かっているので重くは感じませんが、その重さは体にちゃんと作用している、という事でしょうか?」
「あぁ、たぶんそう、かな。ジンだって大暴れした後は『筋肉痛が酷え』なんて言ってたから」
そうかも知れませんね。私はファバリンのバフを貰ったことはないですから、その辺りの事はよく分かりませんけど。
「リザもさ、レミと一緒に後衛に下がらない?」
「……足手まとい、でしょうか……?」
「全然! 全然そんなことないよ! ただ――」
「でしたら下がりません!」
はっきりと強く、アレクの言葉を遮ってリザが言いました。
珍しく語気荒くそう言いましたが、あっという間に表情を和らげ優しい声音で続けます。
「わたくしが何の為に勇者認定を頂いたと思っているのです?」
「それは……僕らと一緒に戦ってくれる為……」
どことなく
やっぱり嬉しいんでしょうね。
「違います」
「……え!?」
「この前も申しましたでしょう? わたくしは、
よく言いました! 恋する乙女はそうでなくっちゃ!
自分だけを名指しされたアレクがデレっと嬉しそうに相好を崩しかけますが、それでもなんとか食い下がります。
「だっ、だってリザの事が心配な――」
それを遮り、ゴンっとアレクの頭が小突かれました。
「バーカ。そんな時はよ、ニコッと笑って『ありがとう』って言や良いんだよ」
「そう。それがイケメン。ロン様ならそうする」
「だって――!」
「バカ野郎。ちょっと耳貸せ」
さらに遮りジンさんがコイコイと指を曲げてアレクを呼び寄せ、耳元にゴニョゴニョ何かを吹き込みました。
少し納得いかない様子のアレクがゆっくり口を開きます。
「……ありがとう、リザ。リザが危ない時は僕が守るよ――」
やっぱりジンさんの入れ知恵じゃそんなところでしょうね……
「――だから、僕が危ない時はリザが守ってね」
まぁ! まぁまぁまぁ! ジンさんの入れ知恵のクセにこれは良いんじゃないですか!?
「……ええ。任せてください」
ニコリっと屈託のない笑顔でリザがそう返事をします。
そうですよ。リザはアレクに頼るのじゃなくて、アレクに頼られたいと思うタイプの娘ですから。
「今度はアレクの言葉で言って下さいね」
そうそう、ちゃんと釘も刺しておきましょうね。
四人はそれから、ジンさんが回収した食べられる魔物の肉を焼いて食事を済ませ、代わりばんこで仮眠を取って、次の襲撃に備えました。
そして再び――、はい来ました、魔物の群れです。
さらにその後も二度三度と魔物の襲撃は繰り返されて日を跨ぎます。
「なんだっつうんだろな、これ」
「飽きた」
「うーん、僕も」
「わたくしはそうでもありませんが……」
最初の襲撃から丸二日の朝を迎え、アネロナの勇者パーティ三人は飽きちゃってきています。
なまじ空き時間があるから疲労もある程度取れますし、その気持ちも分からないではないですけれど。
魔王のバフもあるので、大いに余裕という訳でもないですが特には苦戦もしていません。リザも相変わらず筋肉痛はあるらしいですが、戦闘においては同様に苦戦というほどでもありませんね。
なんとなく弛緩した空気の四人ですが、こんな時ほど危ないんですよ。
ほら、次の襲撃が――
「がはははは!
――はい来ました。
元気ですかー!? ですって。
魔物の群れを率いた元気で大きな一人の魔族。
体格は似ていませんが、きっとレダやフルの関係者なんでしょうねぇ。
言っておきますけど、魔族ってこんなのばっかりじゃありませんからね?
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