第78話「デートをしませんか」


 『わたくしが参ります』


 そう言ったリザの言葉に敏感に反応したのはもちろんアレク。


「そんなのダメ! 危ないよ!」


 アレクの気持ちも分かります。

 十年前、以前のリザと遜色ない強さを誇ったリザの両親。さらにロン達五人の冒険者を加えても、二頭の魔竜を屠るのが限界でした。しかも大きな犠牲を払って。


 けれど今の、勇者認定を受けたリザであれば……



「アレク、落ち着いて聞いて下さいね」

「そんな落ち着いてなんて――」

「アレク。聞いて下さい」


 うぐっ、とアレクが口から出し掛けた言葉を飲み込みました。


「十年前と同様であれば、恐らく二頭居るでしょう。わたくしでなくジンさんが魔竜に当たるとすればどうでしょうか?」


「倒せる……と思う」


「回復の出来ないジンさんが、お一人で、ですよ?」


「倒せても……無事じゃ済まない、かな」


 まぁそうかもな、というふうにジンさんが頷いていますね。

 ゆっくりと、リザがアレクに一つずつ話しを続けます。


「レミさんならば? 魔力に限界のあるレミさんが、ですよ?」


「短期決戦なら……けど、危ない、かな」


 レミちゃんも少し自信なさげに頷きました。



「もしここに今、ジフラルトが現れたらどなたがそれを倒すのですか?」


「――…………僕」


 こっくりと、不満ありげにゆっくりとアレクも頷きます。


「ですからわたくしが行くのが一番良いのです。それに何より、狙われているのはわたくしの国です。分かってくれますね?」


 リザの癒術は一級品、さらにリザの精霊力は辺りにマナさえあればほぼ無限です。

 単騎で赴くのであれば、アレクを除けばリザが最もバランス的にもベスト――とまでは言いませんけどベターなのは自明ですね。


「わ、分かる……けど――」


 アレクの気持ちももちろん分かりますよ。

 一人で送り出して何かあったら――そう思うのもしょうがありませんよね。

 そんな泣き出しそうな顔のアレクへ、リザが優しく語り掛けます。


「アレク。事が全て済んだら……またデートをしませんか?」


「……デート?」


「この間カコナから美味しいパンケーキのお店を教えて頂いたのです。ご一緒しませんか?」

「する! 僕パンケーキご一緒! するよ!」


「約束ですよ?」

「うん! 約束する!」


 イヤな感じのフラグっぽさに気付かず屈託なくそう返事を返したアレクへ、微笑みを消して真剣な眼差しのリザが続けます。


「――わたくしは、絶対に約束をたがえるような事はありません。ですから、行かせてください」


 少しの沈黙。

 そして、ふぅっと息を吐いたアレクが言います。


「……ずるいなぁリザって」

「これでもわたくし大人ですから。大人は狡いものなんですよ」


「僕も早く大人になりたい。そしたらこんなの、一人でチョチョチョイっと解決させるんだけどな」

「お一人でなんてさせませんよ。その時もわたくしがお手伝い致しますから」


 ニコっと微笑んだリザの胸へ、アレクが勢いよく飛び込んでしがみつきました。


「きゃ――こら、ダメっ――あんっ」


「リザ! 僕まだ子供だからか! みんなが言う今のリザの綺麗はよく分かんない!」


 ぎゅっとリザにしがみついたアレクが大きな声で続けます。


「でも! 前のリザも今のリザも!」


 え…………まぁっ! それって――!?


「アレク? それは……」

「よく分かんない!」


 アレクは元気よくそう返事をしましたが、そういうものかも知れませんね、恋心って。


「でもホントだよ! 一番とか二番とか、そんなのもう関係ない! どっちのリザも較べられないくらいに好き!」


 むぎゅう、とリザの胸へ、真っ赤になった顔を隠すように押し付けるアレク。

 それを慈しむように、さらにその上からアレクをぎゅっとその胸に抱きしめるリザ。



 良いシーンでしょう?

 なのにそれを見てニヤつくジンさんがレミちゃんに向かって、両手を使って胸の前でぼんを描きつつ下ろし、お腹の下あたりでもう一度ぼんを描いて見せました。


 すかさずレミちゃんの膝蹴りがジンさんの太腿の外側にクリティカル。そして悶絶するジンさん。


 そりゃそうなるでしょう。

 なにが、ですか。


 もっとやったんなさいレミちゃん。



「ねぇアレク?」


「なに?」


「今のわたくしにアレクを振り向かせた、そう思っても良いのかしら?」


 そうそう、それですよ。

 ちゃーんと答えて貰いますよ〜。


「あ、あー……そ、そういう事になっちゃう、かな」


「アレク――っ!」


 感極まったリザは、その強力ごうりきをもってアレクをぎゅうぅぅっと抱きしめました。


「ちょ、ちょっと――リ、リザ、くる、苦しっ、い、息が出来ない、よ!」


「――ご、ごめんなさい! 嬉しくってつい!」


 げほっげほ、げほ、と咽せるアレクがちょっと待ってというふうに掌を広げて息を整えます。

 そして改めて――


「リザ、早く戻ってきてね」

「ええ。それこそチョチョチョイっと済ませてアレクを助けに戻りますわ」


「うん、待ってる。終わったらさ、デートもするけど……、

「――! ……ええ、喜んで」


 ふんわりと微笑んだリザ。

 とっても綺麗ですよ。

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