第72話「最速の伝令」
怒り心頭のフル・コルトですが、その体にあまり力は残っていない様です。
「……ぐぅっ」
血を失いすぎたからか、体の復元に魔力を使い過ぎたからか、ぐらりと体を傾け地面に膝を付きました。
「……お、おのれぇぇ、忌々しいクソチビがぁぁ……
「おい
「ジンに任せるよ。僕のレイピアだと時間掛かっちゃいそうだし」
「分かった任せとけ。ドカンとやったるぜ」
アレクがレイピアを右手首の腕輪に仕舞います。
そして振り向き、リザとレミちゃんへ、もっと下がる様に伝えました。
「よっしゃ!」
ジンさんが高く跳び上がり、地上から十数メートルの所でクルリと回転。地面に対してお腹側を向けました。
「喰らえや!」
ググッと右腕に蓄えた力を、地面へ向けてパンチの要領で解放、その直後、ズドンっ! と音を轟かせて地面を大きく抉ってみせました。
「…………あ、ありゃ?」
「バカジン」
よく狙って放たれた筈でしたが、ジンさんの拳弾はあっさりと的を逸れて着弾し、その爆風がフルのケープを吹き飛ばしたそこに、フルの姿はありませんでした。
「……や、やっちまった……か?」
きっとやっちまってるでしょうねぇ。
それにしてもジンさんの拳弾――身体硬化で硬くした腕周りの魔力、それをパンチと共に撃ち出す技――、オシャレですね。
『――ここは一旦引いて差し上げましょう――』
この間と同じですね。
恐らくはケープの影にご自分の核だけを隠して逃走を図ったのでしょう。
『私の言葉に従わなかった事を後悔するでしょう!
「……後悔するとしたら、トドメをジンに任せた事だけだよ」
「――……すまん!」
パンっと両掌を合わせたジンさんが頭を下げます。
『明朝より! そちらが
リザが探知した魔物の群れ、どうやらそれは第一陣の様ですね。もちろん
「逃げられっちまったか?」
「そりゃ逃げられるよあんなの。あんな大きく抉っといて外すなんて信じらんないもん」
「すまん! 言い訳のしようもねえ!」
もう一度ジンさんが両掌を叩くようにして頭を下げます。
でもホントですよ。直径三メートルほども抉っておいて、まさか外すとは思わないじゃないですか。
こんな時に
「まぁ逃げられちゃったのはしょうがないよ」
「問題は別の所」
明朝からの魔物の群れ、ですね。
リザが探知した百を超える魔物の群れ、それが毎日続くとのことでしたが――
「問題は二つだね。それが何日続くのか、と――」
「ジフラルト」
「そう。キショはああ言ってたけど、キショじゃなくてホントはジフラルトが率いて来てるのか、だね」
どちらもなかなか大きな問題ですよ。
毎日百だか二百だかの魔物の群れ、それに魔族を伴ったジフラルト、これはさすがにアレク達でも――
「でも一番の問題は……ロンだね」
……え、ロンですか?
「魔物の群れなんてなる様にしかならないけど、本当にジフラルトが来てるんなら、ここにロンを連れて来とかなきゃ」
ああ、なるほど。『魔王の種』を掠め取る件ですね。
「魔王も来るなら来いってとこだけど、ロンがいなきゃ倒してもしょうがないもんね」
「なら俺が
「いえ、だったらわたくしが」
「うーん。それでも良いけど、ジンやリザだと朝までに帰って来れないかも知れないよね。だったら僕が全速力で行って来ればギリギリ――」
伝令ひとつとってもアレクが最速です。けれど万が一間に合わなければ、アレク抜きで魔物の群れに対処しなければなりません。それは少し不安です。
間に合わないかもと覚悟の上でジンさんかリザが走った方が無難でしょうね。
と、少しのあいだ三人は頭を捻っていましたが、これ以上ないという案をレミちゃんが出しました。
「難しくない。レミ達にはあの人がいてる」
「「あの人?」」
こくり、と頷いたレミちゃんが顔を上に向けて言います。
「お願い、お婆ちゃま」
お婆ちゃま……? ってそれ私ですか?
「「……あ」」
……あ、ホントですね。
私ならロンの所まであっと言う間じゃないですか。
『かしこまりました。他に何か伝える事はありますか?』
透け透けの体を表に出して、私も打ち合わせに参加します。
うっかりしていましたね。私なら誰よりも最速の伝令が可能でした。
「アイトーロル王やニコラ爺やさんにも伝えてくれる?」
『トロルナイツを呼ぶんですか?』
「ううん。警戒だけして欲しいんだ。魔物、取りこぼすかも知れないから」
『分かりました。その様にお伝えしますね』
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