第73話「またゆっくりお茶でも」
『そういう訳なんですよ。ですからロンも森の方へ向かってくださいな』
「そんな事になっていましたか。分かりました。これからすぐにでも――!」
「ワタシも行くよ!」
ロンはカコナと三番亭の食堂で食事中でした。
一応言っておきますけど、普通に向かい合って座っていましたよ。
「ワタシだって何か役に立つかも知れないし!」
「……分かった。頼む」
二人共に、リザたち四人を心配してくれているのがよく分かります。ありがたいですね。
『朝イチに間に合わなくても平気です。多分、だそうですけど』
「そうなのですか?」
『いきなりジフラルトが出ては来ないだろう、と』
「……ふむ、確かに」
ロンはこれでオッケーですか。
さて、今度は王とニコラですね。
◇◆◇◆◇
「王よ! また現れましたぞ! この
まっ! なんて言い草でしょう!?
と、思いもしますが何一つ間違った事は言っていませんね。全部が全部その通り過ぎて笑ってしまいそうでした。
そう思ってアイトーロル王に視線を遣ると、このトロルにしては線の細い老トロル、実際に笑ってましたし。
「くっくっく――、あ、いや失礼。ニコラよ、この方は我らよりももっともっと前のトロル、ご先祖様にあたる方だ。丁重に接しろ。それこそ我が奥に接する
私にだけ分かる様に、ぱちり、と片目を瞑ってそんな事を仰いました。
やる事がいちいちお洒落なおじーさんですよね、この方は。
「なぬ!? ご先祖様ですとな!? このチビ――小さな婆――老婦人が……?」
最近のトロルはほとんど知りませんからね。かつてのトロルが小さかった事を。
魔の棲む森に魔族がやって来ている事、その中に魔王ジフラルトもいる可能性が高い事、それにリザを含めたアレク達勇者パーティが当たる事などなど。
「こうしちゃおれん! トロルナイツを招集せねば!」
「落ち着けニコラ。ご先祖様がまだ話しておられる」
ニコラと違っていつでも冷静沈着、若い頃から聡明な方でした。いかんせんカルベの様にバルク不足でトロルとしてはあまりおモテになる方ではありませんでしたけど。
なんて私が頬を染めている場合じゃありません。
『アレクから言付かっていますのは、アレク達が
「なんじゃ! 儂らの出番はそれだけか!?」
「黙れニコラ。リザもアレク殿たちも命懸けで戦う覚悟なのだ。それにお前たちの仕事はなんだ? 言うてみよ」
珍しく怒気を隠さずに王が言います。久しぶりに怒られたニコラはシャキッと立ってキビキビ返事を返しました。
「はっ! 我が国の守護にございます!」
「そうだ。お前ならば分かっていよう。自らの職務を全うするよう申し付ける」
「はっ! 年甲斐もなく調子に乗って申し訳ない!」
そう言ったニコラは、王と私に向かって最敬礼を一つずつ、そしてバタバタと部屋を出て行きました。
「いくつになっても落ち着きのない男で申し訳ない」
『いえいえ、そこがニコラの良い所、でしょう?』
「賑やかで退屈はしませんな」
アッハッハッハ、と少し大きく笑った王は笑いを収め、真剣な眼差しと共に頭を下げて言いました。
「孫娘のこと、何卒よろしくお願い致します」
『ええ。私にとっても可愛い孫娘みたいなものですからね。任せてください』
「事が済みましたら、またゆっくりお茶でもご一緒したいですな」
さて、アイトーロル王と二人の時間も楽しいですけれど、リザ達の事も心配ですから戻りませんとね。
◇◆◇◆◇
あっという間に飛んで戻りましたが、なんだかんだでもうすぐ深夜ですね――
「――
これにはさすがにビクッとしました。けれど――
「あはははは! 似てる!」
「ばはははは! そっくりじゃねえか!」
「ぶっふぅぅ! 似すぎですわ!」
「えへん。自信作」
…………どうやら軽く食事をとっているみたいですが、何やってるんですか貴方たち、余裕ありすぎじゃありませんか?
みんなに似てる似てると褒めそやされたレミちゃんは、調子に乗ってさらに幾つか続けました。
「それにしても美しい。
レミちゃんは魔族フル・コルトの無駄に大きな香ばしいポーズと共にそう言ってみせ、笑いの渦を巻き起こしました。
しかし、ちょっと魔族言葉が長すぎて意味が伝わらなかったみたい。
「それなんて言ってんだ?」
「なんて美しいんだ! 完璧! って意味」
「そんなん言ってたか?」
それは前回の登場の時ですね。ジンさんもアレクも居ませんでした。
それをレミちゃんが簡単に説明します。
「……そっか。
アレクの言葉に少し気まずい空気が流れましたが、それを特に読まずにジンさんが続けます。
「ぶっちゃけ
「――バッ、バカジン! 今のリザも前のリザも僕のなんだからね!」
慌てたアレクがジンさんに噛みつきますが、どちらもいけませんよ。
女の子を『くれ』だの『僕の』だの言っては。
どの殿方も女心が分からなくって困りますねぇ。
アイトーロル王を見習って下さいませね。
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