第67話「ロンの決意」
どうせ昨日はレミちゃん主導だったでしょうからね。
誰よりも大人の女性である私に聞くのが正し――
――え、違うんですか?
『トロルの腕輪について、ですか?』
危うく恥をかいてしまうところでした。
声に出さなくて良かったです。
「はい。ご存知だと思いますが、今の俺の姿はこの、トロルの腕輪の力によるものです」
もちろん存じておりますよ。この世には私が知らない事の方が少ないほどですからね。
ちょっとオーバーでした、ごめんなさい。
『それは知っていますが、この私に腕輪の何を聞きたいと言うのです?』
「何を……、いえ、何をと言うか、この腕輪はなんなのかを教えて頂きたいのです」
『それはだから、トロルの『変身』を擬似的に使える腕輪だとしか……』
以前にもした、最も簡潔で分かりやすいと思われる説明を繰り返しますが、どうもロンは納得がいかないご様子。
「そう、この間のエリザベータ姫が使った『変身』についてこのカコナより聞いたのです」
ああ、カコナには簡単に説明しましたね、確か――
『細胞一つ一つにバフやデバフの力を持った癒術を重ね掛けするんです』
――と説明しましたっけ。
「カコナから聞いた説明ではどうにもしっくり来ないのです。俺の体自身にバフやデバフが掛かった感覚もないですし、なおかつマナの濃い所で元に戻る意味も分からない」
その通りですね。ここのところのロンは
『擬似的に、ですからね。根本的に別物だと考えてください』
少し細かく説明してあげましょうか。
まずトロルの腕輪は、装着者の姿を詳しく精査し、その内容を微に入り細に入り記憶します。
そして、その者が仮に『変身』を行った場合に取る姿を
そして、装着者が擬似変身を行なった際には、その実体とアバターラを
あら、カコナは全く理解できていないご様子ですね。けれどさすがはロン・リンデル、ふむふむと頷いて御自分の予想とを擦り合わせているようです。
「仕組みは理解致しました。けれど、間違いなくアレクに核――魔族の心臓――を貫かれた俺が何故いまアバターラの身で生きているのかは――」
『それは私にも分かりません。想像で良ければ思い当たる事もありますが……』
「それで結構です。聞かせてください」
一つも確証はないんですけれどね。
『これは魔王の種――、貴方に芽吹いていたソレがなんらかの作用を引き起こしたのではないか、と考えてしまいますね』
マナの濃い所で元の姿に戻る、というのが引っ掛かりますから。
「……やはり『種』、ですか……」
なんだか分かりませんが、ロンが微動だにせず物思いに耽っています。
私の考えとどうやらロンも同じ考えだったようですが……、あ、まさかこの子――
「ならば、再び俺が『種』を手に入れたとすれば……」
やっぱりそう考えちゃいますか。まぁ、そうなりますよね。
『分かりません。元の貴方に戻る可能性もありますし、もしかしたら今の不思議な貴方の状態自体が崩壊するかも知れません。なんとも言えませんね』
しばらく沈黙が流れましたが、それを破ったのはずっと黙っていたカコナでした。
「ねぇ。なんで戻る必要があんの? 良いじゃん今のままで」
その通りですよ。今のままでレミちゃんと仲良く生きれば良いんですよ。
「ん、まぁ、そうだ。今のままが俺も一番良い」
ロンはそう言いましたが、その表情に色濃く葛藤が浮かんでいます。
「だったら――!」
「――しかし俺は魔族だ。そしてどの種族とも仲良くしたいと考える魔族は、俺だけなんだ」
魔王の種とは世襲でもなんでもありません。
その時代に魔王となる素質のある者に、ランダムに根付き芽吹くものだそうです。
唯一人おかしな魔族だったロンにそれが芽吹いた事は、私たちこちら側の者にとって、稀有な僥倖だったと言っても過言ではありません。
「元々の俺が魔族を束ねる事を放棄していなければ……、エリザベータ姫の両親が死ぬ事も、アレクの祖国が滅ぼされる事もなかった」
苦しそうにそう言い、強い決意を瞳に宿したロンが続けました。
「その為に俺は……
そんな重た〜い言葉でこの話題は一旦終了して……
「ところで昨夜はお楽しみだったようですね? ……ってかぁ!? どうなんよそこんとこ! ちょっとオネーサン達に言うてみ!?」
途端にカコナがオッサン化。
けれど私だってそこんとこちょっと聞きたいですね。
「……初めての事で何をどう言って良いのか分からんのだが……そう、レミ嬢の言葉が的確だな。『新しい扉が開いた』まさにそれだ」
もしかして貴方たち、その扉開きっぱなしになるんじゃなくて?
もう少し
ちょっと刺激が強すぎますよ。
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