第66話「色々と聞きたい事」
あの後の二人はね。
ランチを食べる時も向かい合ってでなくて横並びで腰掛けましたし、雑貨屋さんを覗く時だって自然に手を繋ぎましたし、なんだかもう見てるこっちの頬が染まってしまうような、初々しい雰囲気のデートでしたよ。
十二歳のアレクは歳よりも大人びていますし、二十四のリザは歳のわりには
二人は健全にデートして、そして健全に夕方には解散しました。
そして翌日のお昼過ぎ、また同じメンバーで集合したんです。
「おいレミ。昨日帰って来なかったけどよ、どこ行ってたんでえ?」
唇の端を片方だけ上げたレミちゃんが、いつも通りぶっきらぼうに言ってのけます。
「察して」
背中の下、腰の辺りをトントンと叩いていたロンの隣で胸を張っています。
結局私は覗きませんでしたけど、どうやら三番亭で一泊したみたいです。ある意味、健全ですね。
定型句ですけど、一応言っておきますね。
若いって、ホント素晴らしいですねぇ。
「ジンの助力もあり、とにかくキスニ姫から
ジンさんの助力と女史は言いますけど、私が覗いた限りでは
『オメエは一体なにしに来たんだよ』
『騒動ばっか起こしてんじゃねーよ』
『バーカバーカ、キスニのバーカ』
女史が懇々と行った説得の合間にそんな事を言ってただけなんですよ。
それにキレて、『こんなもんアレクにくれてやらぁ! バカジン表出ろコラぁ!』と
大国アネロナがそんなので良いんですか……と心配にもなりましたけど済んだ事ですしね。結果オーライですか。
ボラギノ女史がご自分の左腕に着けていた幅広の腕輪をパチンと外し、クイっと顎を上げてアレクに視線で
頷いたアレクは跪き、頭を下げて女史の言葉を待ちます。
「アネロナ王の代理、ボラギノ・ウルの名の
「謹んでお借り致します――、大事に使うよボラギノ」
「これアレックス、最後までキチンとやる!」
てへっ、と舌を出して笑うアレクが可愛すぎてびっくりしました。
ボラギノ女史もそれ以上キツく言うこともなく、やはりアレクの美しさはただ事ではありませんねぇ。
「久しぶりだね、エスエス! また頼むよ!」
アレクは普段から使っているお気に入りの精霊武装を右腕に付け直し、そしてそれより倍ほど幅広の、銀色に光る
「ロンなんてこれ見て忌々しいんじゃねえの?」
「……忌々しい……?」
「だってオメエ……デルモベルトだった時にヤラレたの
「……そうか。あの時はあっという間だったからな」
あっという間でした。
待て人族の勇者! と言ったデルモベルトの言葉を一切聞かずに
「ま、良いじゃない、済んだことだし」
「オメエが言うんかよ」
「そうだな。済んだ事だ」
「オメエが良いんなら別に良いんだけどよ」
仕切り直し、とでも言うようにパンっと手を叩いたアレクが続けます。
「エスエスも手に入った事だし! じゃ四人パーティの練習行こっか!」
そうそう、こちらから攻め入るつもりでも、ロステライドからの刺客が現れるかも知れません。
早く準備をするに越したことはありませんからね。
「少しエリザベータ姫のお祖母様と話したいんだが構わないでしょうか?」
ロンです。私に何か御用でしょうか?
「アレク達勇者パーティは行ってくれ。個人的に色々と聞きたい事があるだけだから」
「あ、そう? なら行こっか。カコナはどうする?」
「うーん、ワタシが参加しても役に立たないしなぁ」
「ならばカコナは俺の方の話に参加してくれないか? 話を聞く事があるかも知れない」
なんでしょうね? なんとなく私にはアレかなと察している事もありますけれど、正解でしょうか?
「なんだか分からないけど、じゃ、そっちは任せるね。おばあちゃんよろしく」
私もそうですけど、気軽にこの私を呼び出すようになりましたねこの子たち。構いませんけど。
女史は『数日後にはアネロナに戻りますが、一度アイトーロル王へもご挨拶に伺います』と言い残して一番亭へと戻り、アレク達四人もぞろぞろと出て行きました。
出て行く寸前、レミちゃんがロンの手を取りジッと無表情に見詰め、潤んだ瞳とともに一瞬だけチュッと唇を突き出したかと思うとすぐさま踵を返します。
ロンだけに判るように手の動きのない投げキッスをしたらしいですけど、みんながっつり見てましたよ。
レミちゃんのキス顔、とっても可愛いです。ごちそうさま。
『それで、お話とはなんですか?』
姿を見せた私へ、ロンがすぐさま本題に入りました。
「トロルの腕輪について教えて頂きたいのです」
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