第65話「わたくしが諦めても」
「やっぱり今のわたくしとデートしても楽しくありませんか?」
「――え!? なんで!? 楽しいよ!?」
二人は女神ファバリンの大木の足元、街の広場で話していました。
最近なにかと話題の二人ですからね、それなりに目立ってますから大きな声だと筒抜けですよ。
「ならば良いんですけど……」
「ほんとだよ! 楽しんでるから!」
アレクはそう言いますけどね、確かに以前の『リザ好き好き大好き死ぬほど愛してる』のアレク程には熱量を感じませんもの。
私でそうなんだから、もちろんリザだってそれは感じているでしょうね。
「……う、うーん。やっぱり嘘は嫌だから正直に言うよ」
「……はい。伺います」
「本当に楽しくない訳じゃないんだよ。ただ、あの、ごめん……気を悪くしないでね。その、大好きな
うん。
正直によく言ったとね、私なんかはアレクを褒めてやりたいと思いますよ。
リザもよく分かっていたんでしょう。
目を閉じて、こっくりと頷いていますもの。
以前アレクは、オフショルリザの剥き出しの肩周りを見て理性を失いかけ、実際に失い拉致という暴挙に出たりしました。
ここのところのアレクは、言い方はおかしいですけど、
「ごめんねリザ。決して今のリザが嫌いな訳じゃないんだ。前のリザを
「謝らないで下さいませ! それを分かってて、自分からこの姿のままでいるのですから! ……わたくしこそごめんなさい!」
少しの間、どちらも何も話しません。
ただ見詰め合っていましたが、不意に俯き口を開いたのはアレクです。
「貴女のその長く美しい紅髪、紅髪によく映える
俯いたままでそう言ったアレクが顔を上げ、リザへニコリと微笑みました。
「覚えてる?」
「ええ、もちろん。忘れるはずがありません」
アレクがリザへ放った初めての告白ですね。
ずいぶん前の気がしなくもないですけど、兎の月の事ですから先月の事なんですよね。
ちなみに今はドラゴンの月。
「リザはあの時、全然信じてくれなくてさ。突き飛ばされちゃったんだよね」
たはは……、と照れた思い出し笑いをしてしまうアレク。はにかむ姿がとても可愛いですね。
「あっ! あの時は――その、本当にごめんなさい!」
「良いの良いの、謝って欲しくてとかじゃないからね。ただね、僕はさ、やっぱりあの頃のリザが一番好きだよ、ってね。もう一度伝えたいな、って思ったから」
ここだけの話、アレクの趣味って変わってますよね。
だって、二人の周りには誰もいませんが聞き耳を立てているアイトーロルの民たち、特に男性トロル達がアレクの言葉にウンウンウンと頷きまくっていますもの。
「……分かって、います……。本当に、ありがたいお言葉だとわたくしも思うの、ですけど――」
一旦言葉を切ったリザ、少し溜まった涙を拭って続けました。
「――わたくしは、この姿のままで貴方を……わたくしに振り向かせたい……。けれど……大変、虫の良い……はな、……し……ですけ、ど」
「リザ。怖がらずになんでも言って。僕はちゃんと聞くよ」
「……ありがとう……ございます――」
一度深呼吸をして、両手で涙を拭って仕切り直し。
「この姿のままで貴方を振り向かせたい。けれど、それをわたくしが諦めた時、もし元の姿に戻ったとしても……大変虫の良い話ですけれど、わたくしを嫌わないでいてくれますか?」
「嫌わない。誓うよ」
これ以上ない程に真面目な顔のアレクが、一つも揺らぎを見せない声音でそう言ってのけました。
これは惚れますわ。
また再び、リザの瞳へ涙が溜まっていきますが――
「でもさ!」
――と続けたアレクの反語にびくりとリザが反応します。
「リザが振り向かせてくれても、元の姿に戻ったとしても、どっちの姿のリザでもさ、僕は
パァッと明るい表情でそう言ったアレクに、一つの曇りも見られません。本当に本心で言っているらしいですね。これはもっと惚れてしまいますわ。
「僕はリザを待つよ。だから、慌てないで」
「……アレクったら――」
二人はまた昨日の様に手を取り合って、お腹が鳴るまでそこで見詰め合っていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます