第68話「半減の四、五倍」
ドン、ドンドン、ドドドドドン、っと炸裂音が轟きます。
ロンが決意とホニャララを語っていた頃、アイトーロルから魔の棲む森へ向かう途中の原っぱでレミちゃんの魔術が炸裂しまくっていました。
「へぇぇえ。やるもんだねぇ、でっかいお姫さんも」
「この間は斧持って歩くのにも苦労してたんだよ」
ジンさんとアレクは少し離れて高みの見物ですね。
リザがぐるんと回した戦斧を小脇に構え、レミちゃんが連続して放った氷塊へ向けて「せぇっ!」と上げた掛け声と共に戦斧を一振り。
全ての氷塊を砕き撃ち落としてみせました。
「ひゅーっ! やるじゃねえの!」
ジンさんが声を上げるのもごもっとも。
一列に並んで飛んできた訳ではない氷塊を、一振りで斬るのは物理的に無理ですから。
リザは瞬時に判断し、戦斧の刃――
リザ愛用の巨大な戦斧の大きさは以前にお話ししたかしら?
戦斧と呼ばれる斧の中でもバトルアックスと言われるタイプの形で、以前のリザの身長と同じ二百十センチの全長に、重さも以前のリザと同じ百四十五キロ。
片方の斧刃は大きく丸い直径八十センチ、逆の小さな斧刃は小さめの直径三十センチ。ともに斧刃は黒光りし、
そして柄の末端の石突は斧刃と同じ黒。
さらに先端には柄と同色の銀に輝く小さめの
「疲れた」
どうやらずいぶんと魔力を消費したらしいレミちゃんがペタリと座り込んでしまいました。
「――ふぅっ」
リザも構えた戦斧の石突をドスンと地に付けて立て、一息ついて額の汗を拭います。
「やるじゃねえの姫さん!」
「リザ! カッコ良かったよ!」
少し離れた小さな丘の上から眺めていた二人も合流し、女子二人を
ジンさんの言葉の通り、思っていた以上に勇者認定によるバフの効果があって私もホッとひと安心です。
まだ戦斧に振り回されるんじゃないかと心配していましたから。
「どう? 体の感じは?」
「そうですね、勇者認定を頂く前と較べれば相当良いです。それこそ四、五倍程度には動けている気がします」
変身後の
アレク達勇者パーティの足を引っ張らずになんとかついて行けるレベル、と言ったところですね。
「よっしゃ! なら今度ぁ俺とだな! かかってきな姫さん!」
座り込んでいたレミちゃんを雑に担ぎ上げてアレクに渡したジンさんが、そう言って拳を握って構えました。
まさか素手でリザの巨大な戦斧と試合おうと言うのでしょうか?
「……え、ですが……」
リザも同じ様に思ったらしく、彷徨わせた視線をアレクへ向けます。
「大丈夫。ジンだって普段あんなんだけど結構やるんだから。殺す気でやっても平気さ」
「……分かりました。では、お願い致します!」
リザがジンさんへ頭を下げると同時、うつ伏せのレミちゃんを肩に引っ掛ける様に乗せたアレクがぴょんと大きく後ろに飛んで距離を取り、リザへ向けてもう一言付け加えました。
「リザ! 精霊術の方も試しといてね!」
そうそう、それです。
素の肉体は弱体化中ですが、精霊術の方は弱体化なしで勇者認定のバフが掛かっていますから。
今のリザの精霊術は相当強くなっている筈なんです。
「お、おいバカ野郎! それじゃちょっと
ジンさんが慌てて叫びますが、アレクの『はい、始めて!』の声に『はいっ!』と元気よく応えたリザが斧を構えて飛び込みました。
容赦なく振り下ろされたリザの巨大な戦斧。
「お、おい……マ、マジかおいーーっ!」
言葉の流れから精霊術で攻めて来ると思っていたらしいジンさんが、慌てて交差させた
――まさか受け止めきるとは思いませんでした。
がきんっ、と金属同士が当たる様な音を立てて戦斧を止め、流れる様に体を回して後ろ回し蹴りへ繋げたジンさん。
それを戦斧の柄で止め、その勢いを利用して後ろへ飛んで距離を取ったリザ。
「……焦った。マジで腕持ってかれっかと思ったぜ」
「
「へへへ、そうだろ。俺ってば実は結構凄えんだよ」
ちょっと私も感心しちゃいました。
言っちゃ悪いですけど、ここのところ
「リザ! ジンってそれしか出来ないから! そんな凄くないよ!」
「うるせっ! 黙っときゃ分かんねーだろが!」
リザが誉めたからでしょうね。アレクが膨れっ面でジンさんの足を引っ張るひと言を放ちました。
恐らく今のジンさんが使ったのは魔力による身体強化、および身体
初めて明らかにされたジンさんの実力、それでも相当大したものですよ、今のは。
盾役としてこれほど優秀な方はいらっしゃらないんじゃないかしら?
「では! 行きます!」
「お、おお、お手柔らかにどうぞ……ってか。はは……」
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