第62話「ジン推しの娘」
「真面目な話に戻すけどよ、とりあえずこれからどうすんだよ?」
今日これから、という意味ではないでしょうね。
ジンさんの言葉に応えたのはアレクです。
「どうしよっか。とりあえず色々と準備が整ったらロステライドへ突撃するのは確定だけど」
「私はキスニツプヤ姫から精霊武装を預かってアレックスに届けますよ。機嫌を取るのは骨が折れそうですけどね」
ボラギノ女史です。
そう言えばキスニ姫の様子はどうでしょうね?
まぁ、どうにもならないでしょうからそれは女史に丸投げですかね。
「うん、頼むよ。無いなら無いで何とかするけど、僕のこれよりあっちの方が単純に強いもんね」
アネロナの至宝、最上級の精霊武装
特になんの力もないアレクのお気に入りと違って、装備者の身を護る力があるらしいですね。
別にスペっシャルでスーパーだから
「ところでよ、昼の感じだと姫さんもロステライド行くんだよな? そっちの二人はどうすんだ?」
ジンさんの言葉で全員の視線がロンとカコナに集まって、二人はウゥ〜ンと唸り顔。
ごめんなさいね、イマイチ役に立たないバフしか上げられなくて。
「さらにところで……、この
こないだ、って言うとキスニ姫の暴言事件の時ですね。
あの時はもうね、自己紹介なんてする余裕ありませんでしたから。
少し頬を染めたカコナがアレクに目配せしていますね。
「あ、そうだっけ? この子がこないだ言ってたジン推しの
「ばっかオメエそんなん黙っとけって。ちょっとしたジョークだよジョーク」
慌てた様子のジンさんが、少し波打つ短かめの前髪を撫で付け整えて、んんっ、と
「ジン・ファモチだ。よろしくな」
お、ちょっと爽やかに言ってみせましたよ。けれどジンさんらしくはありませんね。
握手の為にスッと差し出した手もなかなかパリッと紳士的で、これまたジンさんらしくありません。
「あっ、え、と、カコナ・アルです! 誰派かと聞かれれば、当然ジン様派です!」
一瞬デレりと歪めた顔のジンさんが、ハッと気付いてまじまじとカコナの上から下までジイっと見詰めたかと思うと口を開きました。
「…………えーと、カコナ……さん? ちゃん? おいくつ?」
「歳ですか? 十八になったとこです!」
…………あれ、どうしたんでしょう。黙ったジンさんが辺りを見回し始めましたね。
「……ボラギノ姉ちゃんいくつ?」
「三十二。それが何か?」
「いや? 別に? ただ、だよなぁって……」
なんでしょう。どこか不満げなジンさんです。
なんとなく
「十八って……ガキじゃねえかよ」
「あーっ! ジン様ひどい! ワタシ、ガキじゃないもん!」
「俺二十八だぜ? しかも十八ってったらレミと一緒、そりゃもうガキ以外の何者でもね――ぐはぁっ!」
「黙れバカジン」「ジン様のアホ!」
……なにが、ぐはぁ、ですか。
十八の乙女二人に殴られるのもしょうがありませんよソレは。
ジンさんはやっぱりジンさんでちょっと安心してしまいましたね。
「ロン様は?」
崩れる様にして蹲るジンさんを放置したレミちゃんが、不意にロンへと向き直ってそう問い掛けました。
「どういう意味だ? 歳か?」
ロンの問いにレミちゃんが「ロンの歳なんていくつでも良い」と言わんばかりに首を振ります。
「
「十八がガキかどうかは知らんが、素敵な女性だと思っている。レミ嬢も、カコ――」
おっと、いかん、と、続けようとした言葉を途中で引っ込めたロンでしたが、それを促すようにレミちゃんが手招きします。
「……? ……レミ嬢も、カコナも、エリザベータ姫も、ボラギノ女史も。皆が皆、素敵な女性だ」
「それでこそロン様」
とととっ、とロンへ歩み寄ったレミちゃんでしたが、そのままロンの胸へ飛び込んで顔を
……え? その回答で正解なんですか?
「ロン様にレミ一人じゃ勿体ない。全部
「……え? そうなのか? アレクが言っていた事とはずいぶん異なるが……」
「そういう意見もある。けどロン様には必要ない」
頬をピンクに染め、はぁはぁと息を荒げるレミちゃんが断言しました。
ま、まぁそうですね。
そういう考えもあるかも知れませんね。
どうやらレミちゃん的には自分が娶られるのは確定のようですが、でもリザだけは娶れないと思いますよ。
今もアレクががっちりガードで歯を剥いて唸っていますから。
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