第60話「大体全ての黒幕は」
ザイザールを滅ぼしたのは魔王ジフラルト。
そう断言したロンは、話題が話題だけに場所を変えようと提案します。
キスニ姫だけはノドヌさんが一番亭へと送り届け、
「普段はトロル
トロルナイツの隊長格および班長格が集まれる、二十人程度が余裕を持って座れる広さです。
各々が座り、そしてロンへと視線が集まったところでロンが話し始めました。
道々ロンが魔族の国ロステライドへ潜入していた事を説明しながら来ましたのでスムーズに話は進みます。
「十数年前、当時デルモベルトは『魔王の種』が芽吹いた頃。さらに故あってその姿を隠していた為、魔族側でもデルモベルトがどこにいるのか捜索が続いていた」
ちょうどロン・リンデルとして人族領をうろついていた頃の事ですね。
「そして十年前、ここアイトーロルが二頭のはぐれ魔竜に襲われた際、ザイザールもまた、魔族の軍勢に襲われた訳だが」
まさにその当事者であるボラギノ女史は辛そうに一度顔を俯け、続きを促すようにロンを見詰め直しました。
「その二国が襲われた二つの襲撃。
……え!?
はぐれ魔竜も、ですか……?
私だけではありません。
ここにいる全ての者の目が、カッと見開かれてロンを見詰めています。
それも当然ですよね。
「そ、それが本当なら……、わたくしの両親は……」
「そんな大事な事、なんで今まで言わなかったのさ!」
「それについては謝る。しかし、伝えようとはしたんだが、オマエに蹴り飛ばされたり、タイミングが、な……」
あぁ、確かに以前、アレクが何をしにアイトーロルへ現れたのかとロンに尋ねた際、何かを言おうとしていたロンをアレクが蹴り飛ばした事がありましたね。
「その辺りは後で説明する。今はジフラルトについてだ」
ロンは一旦アレクを宥め、指で自分とアレクとリザを指し、『三人だけで』と口を動かしてから話を続けました。
「彼女は当時ザイザールに居たそうだが、彼女が目にしたのはジフラルトで間違いないだろう」
ロンがボラギノ女史へ視線を向けて続けます。
「おれ――んんっ、デルモベルトの弟ジフラルトは生来、人のモノを欲しがらずにはおれない欲深さを持ち、自分以外の全てをゴミとしか考えない魔族らしい魔族で――」
「――口汚く残忍で愚か。そうではありませんか?」
ロンの言葉尻を引き取ったボラギノ女史が続けました。
「その通りだ」
ボラギノ女史へコクリと頷き、ロンが断言します。
「実際に魔王デルモベルトは魔王としてどこかへ攻め入った事は一度たりともない。十年ほど前にあちこちであった魔族と人族の戦いは、デルモベルトを|騙《かた》るジフラルトが引き起こしたものだけだ」
「そいつは間違いねえのか?」
ジンさんです。
ロンの秘密を知るアレクはともかく、ジンさんとレミちゃんは複雑でしょうね。
自分たちが打ち倒した魔王は、実は人族にとって無害な魔王だったと言うのですから。
「……なんてこったよ! じゃあ何か? 俺らはそのジフラルトとかいう奴に踊らされてたって事かよ!」
バンっ! とテーブルを叩いたジンさんが立ち上がって声を荒げましたが――
「……忌憚なく言えば、そうだ」
――ロンは躊躇する事なく、そう言ってのけました。
ジンさんはどさりと椅子に腰を下ろすと、ご自分の額を叩いて力なく言います。
「……ホントなんてこっただぜ。悪くもねぇ奴やっつけて喜んでたってのかよ――」
場に重たい空気が流れますが、口を開いたのは再びロンでした。
「勘違いするな。大体全ての黒幕はジフラルトだが、デルモベルトが悪くない訳でもない。お前たち勇者パーティは自分たちの仕事をやり切ったのだ、胸を張ってくれ」
デルモベルトが悪くない訳でもない?
悪くない気がしますけど……?
「デルモベルトの何が
「弟のどす黒い悪意に気付きながら放っておいたのだ。俺に言わせれば同罪だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます