第50話「すぐには戻れませんよ」
魔王様もご一緒に……そうフルは言い残しました。
確かロンの話では、まだ数年は大丈夫、だったはずなのですけど。
ちょっと試しに――
『数年は魔王の力は馴染まないと聞きましたが!?』
――大声で問い掛けてみました。
『誰に聞いたか知りませんが、全くそのような事はございませんよ、上品なマダム』
あら、まだお返事頂けるのですね。
『ならば、すでに魔王の力は――』
『我が親愛なる魔王様は! すでに前魔王デルモベルト様のお力を大いに上回っておられます! ま、さ、に、
……もぼーん、ぼーん、ーん、ん……
弟レダと同じように叫び声が
感覚の鋭いカコナへ視線をやってみても、どうやらもう居ないらしいです。
「もう居ないみたい。完璧にいない。ぱるふぇ」
カコナが棒読みでフルの魔族言葉を真似しました。しかも意味もあってますし、勘の良い子ですね。
ふぅ。
また彼に出会うかもと思うと憂鬱ですが、何とか撃退には成功したようですね。
戦斧を杖にして立つリザへ、とてとてと近寄ったレミちゃん。
「リザ姫。おつかれ」
「れ、レミさんも、お疲れ様で、した――」
ずず、ずずず、と支えにした戦斧を滑り降りる様に、リザが腰を追ってドサリとお尻を下ろして斧も一緒にドスンと倒してしまいました。
「リザ姫さま! どっか痛いの!?」
カコナが駆け寄りますが、リザは首を振ってみせました。
「違うんです。ただただ、もう、疲れちゃって……」
やはり筋力が相当に落ちているみたいですね。
見た目からして元のリザより明らかな
トロルの使う『変身』とは幻術なんかと違ってその身を完全に変えるもの。ですからバルク減はそのまま腕力減となるのは当然です。
「わたくし愛用のこの斧。これまでこれほどに重たく感じた事はないのですけれど……」
「……え? そりゃそうじゃない?」
「……え? カコナは理由がお分かりに……?」
微妙に噛み合わないリザとカコナでしたが、見せた方が早いとレミちゃんが再び水鏡を作り出しました。
「――え……これが、わたくしですか?」
「そうみたい」
「はっきり言って可愛いよね!」
先ほどの様にリザが大笑いするような事はありませんでしたが、どうやらリザはすっかり元に戻っているものと思っていたらしく戸惑いが隠せないようですね。
「……こんな事を言ってはなんですけど、わたくし……、はっきり言って可愛い……」
リザもカコナの言葉に同意しましたね。
「けれど、先ほどに較べれば……幾分はわたくしですけれど……」
「元に戻る?」
「えー、良いじゃんこのままで! 可愛いもん!」
カコナは軽くそんなことを言いますが、早めに伝えておくべきですね。
『あー、その事なんですけど。ごめんなさい、すぐには戻れませんよ』
元に戻る為には再び変身せねばなりませんが、それに必要なマナスポットがフルに破壊された事、なので新たに別のマナスポットを探す必要がある事を説明しました。
するとレミちゃんだけが難しい顔。
リザとカコナにはピンと来ませんよね。
「結構ハードル高い」
「え、なんで? 別のマナスポットに行くだけじゃないの?」
『レミちゃんの言う通り。それがそうでもないのです。マナスポットは動きますから』
マナスポットは一つ所に十日ほどしか留まりません。そしてまた現れるのに十日ほど、さらにこの魔の棲む森のどこに現れるかについては全く予測が立たないのです。
たまたまあっさり見つかることももちろんありますが、数日掛けて真剣に探して一つ見つけたら良い方ですね。
「……しょうがありません。しばらくはこの姿のままで過ごすしかないですね」
「ま、良いじゃない? 可愛いんだし!」
リザは
「ところでさ。さっきのキショ魔族って最後なに言ってたの? もぼーんって
『魔王様の状態がね、『めちゃくちゃ良い!』だそうです。リザの姿もなんとかしなければですけど、魔王ジフラルトの方もそうのんびりはしていられない様ですね』
急ぎ戻って関係各所に報告しなければなりませんね。
そして私は姿を隠し、三人は急いで森を抜け、来る時も使った簡易拠点に着こうかという日も落ち掛けた時。
向こうからやって来る三人が見えたんです。
すわ、また魔族か!? と一瞬身構えた三人でしたけど、三者三様の背格好で一目瞭然。
背の低いのはアレク、細っそりと背の高いのはロン、もう一人の大柄なのは…………ニコラ爺やですね。
「なんっでよ! もう一人はジン様が来たら良いんじゃない!?」
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