第49話「一刀両断……?」
二つの音を轟かせ、魔族フル・コルトが大きな魔力弾を放ちました。
なんとか担いだ戦斧で一つはリザが切り裂いて、そしてもう一つは私へ命中です。
けれど、まぁ、私は当然無傷ですよ。すり抜けましたから。
私をすり抜けた魔力弾は大地に着弾、轟音を響かせ地面を深く抉ります。
当然そうなりますよね。
「ねぇ、おばあちゃん……」
『なんです? それよりカコナ、危ないからもっと下がっていなさい』
「……マナスポット、めっちゃくちゃなんだけど、平気なの?」
『マナスぽ…………あっ! あーーーっ!?』
「どうやら『変身』にはそれが
地に降り立ったフルが変わらぬ笑みを湛えたままでそんな事を仰いました。
悔しいけれどその通りです。なんて鋭い魔族なのでしょう。
もちろんマナスポットはここだけではありませんから、リザが生涯あの姿のままという事にはなりませんが、とにかく今この場では戻れない事だけは間違いありません。
「それにしても美しい。
なんて美しいんだ! 完璧! だそうです。
いえ、確かにね。フルの言葉も分からなくはありません。
しかし、そうは言っても先ほどのような美しさでもありません。
すべてがアンバランスな筈なのに、これしかないという絶妙な、ただ一筋しかない美しさを醸している、ような、何故かそんな気持ちを抱いてしまうのです。
「……わたくしが美しい? 貴方が何を仰っているのか分かりませんが、貴方の言う通りに連れ去られる訳には参りません」
よいしょ、とリザが戦斧を肩に担いで構えて言います。
そう、その通りです。とにかくこの変な魔族をどうにかしなければいけません。
「レミさん! 行きますよ!」
やや斧が重たげなリザの足取りですが、離れて戦っては勝ち目が薄いと魔族フル・コルトへ肉薄します。
当然それを黙って見ていてくれはしないフル。
再び多数の魔力弾を放って距離を取ろうという動きを見せましたが、今度はレミちゃんが黙っていません。
リザの目の前と、さらにフルの背後に障壁を張り、フルの魔力弾を防ぐと共に後退さえも阻止します。
「――なっ!?」
ばんっ、とフルは背で音を立てて、口からは驚きの声。
ナイスです、レミちゃん。
そして爆煙を突き抜けたリザが斧を振り下ろし、魔族フル・コルトを真っ二つに一刀両断……この場合は
「ぎゃぁぁっ!」
断末魔、というには小さな声を上げたフルの体がどさりどさりと地に落ち、その勢いで
「……やったの?」
『恐らくは……』
恐る恐るそう私に問い掛けるカコナへ、そうあって欲しいという気持ちで言葉を返します。
しかし、どうやらそう甘くはありません。
フワリと落ちたマントが風をはらんでゆるゆると煽られると、そこにフルの体は見当たりません。
そのマントをリザが素早く叩き斬ろうと戦斧を持ち上げますが、やはりどうにも動きは鈍く戦斧が振り下ろされる寸前、マントが翻りました。
翻ったマントから、再びあの声――
「
――キショいです。
「まぁさかこの私を! そんな無骨な斧で断ち割るなんて! ま、さ、に!
元通りとは言い難い様子の、頭から真っ直ぐ下に赤い線の入ったフルが、肩で息をしながら叫びます。
油断すると左右の高さがズレるらしく、時折り頭のてっぺんと股間をそれぞれ掴んで左右の体の高さを調整したりしています。
「けれどさすがに! ここまでされては腹の虫も治りません! しかしマドモアゼル方のその
『きゃぱして』はここでは『実力』ですね。
間髪入れずに三人が言い返します。
「もうお会いしたくありません」
「もう来んなバーカ!」
「いま死んで」
言うや否やレミちゃんが片手を上げて振り下ろし、風刃を真っ直ぐ飛ばしてみせました。
「それは余りにも
フルが慌てて頭と股間の手を離し、縦二つに分かれて刃を躱し、慌ててもう一度くっつけなおしました。
そうですね、確かに余りにも酷いですが、しょうがないでしょう。
「ねぇ、なんでコイツ死なないの? こないだのレダとかいうのはアレクちゃんに真っ二つにされて爆発してたけど」
カコナも恐る恐る近付いては来ましたが、私の体に隠れて様子を伺いそんな事を言います。
私の陰に隠れても意味ないですよ。透けてますから。
「核が無事。どこにあるか分からない。だから細切れにする」
レミちゃんの言葉にびくりと反応したフルは、股間に置いた手を離してマントを引っ掴んでばさりと打ち振り、そしてマントが落ちた時にはその姿はありませんでした。
逃げちゃいましたかね?
『……逃げはしませんよ。ただ、一度国に帰ってまた参ります。今度は……そうですね、
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