第48話「リザ、二度目の変身」


「死ねばいい」


 無表情なままのレミちゃんが、無属性の魔力弾を連続して撃ち出します。


très bienとれびあぁんぬ!」


 レミちゃんの魔力弾はフルが打ち振るったマントで全て叩き落とされはしましたが、初手としてはバッチリです。


 フル・コルトの得意とする属性がまだ分かりませんから。

 その点、無属性の魔力弾なら単純な衝撃と破壊力のみに魔力を振っていますから、誰にでもダメージを与えられるはずです。


Commentこもん c'estせぇ?」

「それ、むかつく」


 いちいちを使うのが、レミちゃんの言う通り余計にイライラさせますね。

 ちなみに先程のは『これはどう?』ですよ。


 フルが開いた両の掌、その指先から様々な属性の魔術を撃ち込んできました。

 しかしそれを、レミちゃんも負けじと様々な属性の障壁を張って対応します。


「ちょっと大変。だけど平気」


 光属性の光線には光の障壁、火の弾丸には水の障壁、なんだかよく分からない属性には無属性の障壁、などなど良く対応できるものと感心しちゃいますよ。


excellentえーくさらぁん!」


 フルが言うように、レミちゃんはやはり相当な魔術の才の持ち主ですね。この私でさえここまでの遣い手は数えるほどしか見たことがないほどの天才と言って良いでしょう。


 けれど、一対一タイマンでは正直に言ってが悪いです。

 肉体を持たない私は論外ですし、カコナにしてもこのレベルの戦いでは足を引っ張る事しかできません。



「素晴らしいですよマドモアゼル! 人族にこれ程の使い手がいるとは思いもしませんでした!」


 高らかに褒めそやしたフル・コルト。しかしそれは余裕の表れのようですね。

 最初から絶やさないフルの笑みが、全く崩れる事なく貼りついたままですもの。


 互いに魔術を繰り出し続けていますが、このままどちらにも決め手に欠ける攻防が続けば、魔力量の多い方が勝つ事は自明です。


 そして当然魔族の魔力量は、勇者パーティのレミちゃんと言えども比較するのがバカらしくなるほど圧倒的な差があるでしょう。


 せめて、ジンさんやリザの様な壁役ができる者がいなければ……これは、ちょっと……。


 そう思いリザの様子に視線を遣ると、未だ繭がほどける様子はありません。

 まだもう一、二分と言うところでしょ――


 あ、繭が……


 ――どうやら内側から無理矢理に破壊されたらしい繭がバガァンと吹き飛んで、リザが姿を表しました。


『……リザ、貴女……――』


「お話は後です!」


 繭を砕いて飛び出したリザは、近くに転がしていた愛用の戦斧を手に取り駆け出しました。


 ズドドドドン、っと放たれたフルの多彩な魔力弾がバランスを崩したレミちゃんへ殺到しましたが、それを振りおろされたリザの戦斧が弾いて吹き飛ばします。


「お待たせしました! ご無事ですか!?」


「ちょ。リザ姫――その姿……」


Fantastiqueふぁんたすてぃぃぃく! 先程の美しい方! と、très bienとれびあぁんっぬ!」


 大興奮の魔族フル・コルト。

 それもその筈、リザの姿は不可思議に美しい姿となっていたのです。


 先程の人族リザの線はかなり細かったですけれど、それに較べれば幾分かのバルクアップ。

 似ても似つかない顔だったパーツのほとんどが、言われれば分かる程度にはリザのもの。

 さらにお肌の色はトロル特有の濃い緑から薄い緑へ。


 体格を含む容姿の全てが、先程の姿と足して二で割った様になってしまっていたのです。


「――リザ姫さま! っいーー!!」


「お話は後! とにかくこちらのかたを黙らせましょう!」


「……リザ姫、前衛よろしく」


 戦斧を構えたリザのやや後方で尻餅をついていたレミちゃん。立ち上がりながらお尻の砂を払って構えると同時、フル・コルトが叫びました。


「是が非でも貴女が欲しくなりました! 魔王ジフラルト様もお喜びになられましょう!」


 叫んだフルは再び魔力弾をばら撒くように飛ばしましたが、リザの戦斧とレミちゃんの障壁に阻まれ全弾撃墜。


 それを二度三度と繰り返し、なんとか戦いの均衡が取れたように見えましたが、どうにもリザの動きが悪いです。


「――お、重いっ! わたくしの……斧が――!」


 あちゃぁ……、そりゃあそうですよね。

 あのトロルの中でもバルク派筆頭だった筋肉が小さくなっているんですから。



「その美しくも奇怪きっかいな貴女の姿。再び『変身』などされてはつまりません!」


 飛び上がったフルは、両手に魔力を込めて、片手をリザへ、そしてもう一方を私の方へ……、え? 私……ですか?

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