第47話「唐突にキショい兄」
元のリザの姿に戻り、その上でアレクに気持ちを伝える、そう言ったリザはただいま休憩中です。
僅かとは言え、リザが取り込んだ森のマナが現代のトロルの精霊力へ変質してしまいましたので、再び癒術を使い、新たにマナを入れ替えたところなんです。
もちろん一時的なものですが、リザの癒術のおかげでさらに肌艶の良くなったカコナとレミちゃんがリザを見詰めて詰め寄ります。
「ほんっとに誰にも見せずに戻っちゃうの?」
「キスニに見せたら失神する。
二人の気持ち、分かります。
確かに驚くほどに美しいですもの。
けれどリザの答えは変わりません。
「ええ、誰にも見せずに戻ります。この姿は……、どう考えてもわたくしではありませんもの」
それも分からなくもありません。
ちょっと美しすぎたかしらね。
『まぁ良いじゃありませんか。少々手間ですが、この姿になろうと思えばいつでもなれますし。それに私は元々、リザの気分転換になれば、くらいのつもりでしたし。
「ええ、とても」
そう言って、ニコリと微笑むリザの姿が眩しすぎてヤバいですね。私としたことが見惚れてしまいましたよ。
「ん〜確かにそっか……。うん、そうだね!」
「理解。リザ姫は変身しなくても素敵」
マナの状態も良いようです。
「では、もう一度変身します」
リザがそう言い、膝立ちになって手を組み、何かに祈りを捧げるようなポーズで精霊力を纏い始めました。
元の姿へと戻るため、精霊力の繭がリザを包み込みます。
と、その時。
「――! なんか来る! ううん、もう来てる!」
カコナが鋭く叫びました。
「何を
マナスポットを囲むように取り巻く森の木々の中から、一人の男性が姿を表しました。
「ひっ――、魔族!」
「いかにも。私は魔族、その名もフル・コルト。偉大なる魔王ジフラルト様の執事長――んなっ?」
「今忙しい。死んで」
レミちゃんの掌から飛んだ氷の弾丸――弾丸と言うには大きい拳大の氷――が、フル・コルトと名乗った魔族の胸をすでに抉っていました。
「――かはっ」
分かりやすく緑色の血、なんていう事はなく、普通に赤い血がフルの胸や背、さらに口の周りを赤く染めます。
問答無用ですね、レミちゃん。
「……可愛い顔をして酷いお嬢さんですね。しかしその判断力!
……なんだか懐かしい気分なのは私だけでしょうか。
「そのキショい喋り方! あんた、こないだのレダとか言うキショい魔族の仲間!?」
たぶん違うと思いますが、『キショい』って標準語なんでしょうか?
なんとなく伝わるんで別に良いんですけど、キショいキショい言われては死んだレダが報われませんよ。死人に鞭打つのはやめましょうね。
けれどレダがキショいかどうはどうでも良いとして、リザの変身も先程の変身から言ってまだ数分は掛かるでしょう。
余計な手出しをさせないようにしませんと。
『フル・コルトと仰いましたね。貴方はここへ何を?』
「……おやおや、ただのトロルのお化けかと思いましたが、どうやらもっと格の高い存在の様ですね。しかし上品なマダム、少しお待ち頂きたい」
まぁ、上品ですって。
なかなか見る目のある魔族ですね。
フルはそう言って、何もない虚空から大きな黒い布を取り出して、バサリバサリと裏と表をこちらに、何もありませんよ、と示します。
そしてそのまま体の周りに泳がせフワリと羽織ると、なんと胸に空いた穴も血の跡も、全てが元通りになってしまいました。
途中の動きに必要があったかどうかは別にして、大したものですね。
「まずはそちらのキュートガール」
「わ、ワタシ?」
「私を
充分にキショいフルがそう言って、香ばしくビシリとポーズをとりました。
やや上を向いた顔の下半分を片手で押さえ、反対の手を腿の間に挟んで――要らないですね、フルの香ばしいポーズの説明は。
「そしてそちらの上品なマダム」
『私ですね』
「私はここへ、そちらのキュートガールが仰るところの
『と、言いますと?』
そう言った私へ、フル・コルトは勿体ぶった丁寧なゆったりしたお辞儀。
分かりますかね。丁寧過ぎてイラッとするお辞儀です。
「貴女を除くそちらの美しい御三方を! 我が親愛なる魔王様への土産に連れ帰る事に致しましたから!」
その言い方だと私だけ美しくないようにきこえますよ。
イラッとしますね。
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