第46話「リザ、大笑い」
『ならば早速やってみますか?』
「ええ。ですが……いざとなったら怖くって――」
『気持ちは分かりますよ。もちろん、無理にする必要もありませんしね』
私は軽い気持ちでほいほい変身していましたけど、実際問題、リザには全然変身する必要ありませんもの。
何度も言いますが、アレクは今のままのリザが好きなんだし、変身した美しい姿でアレクの前に立ったところで、「チェンジ!」なんて言われかねませんからね。
カコナやレミちゃんには、キスニ姫をギャフンと言わせたいという気持ちもあるようですが、リザにはその気もなさそうですし。
「リザ姫さま? 怖かったらやめても良いんだからね?」
「そう。無理することない」
二人は本心からそう言ってくれているのですが、この場でそれは逆にリザの背中を押すカタチになってしまった様でした。
私の頃と違って、変身一つも手間ですものね。
二人にここまで協力して貰ったリザとしては、何かしらの結果を出したいと思ってしまう
「いえ、やります」
『ええ、やってみなさい。嫌なら元の姿に戻れば良いだけなのですから』
コクリと頷いたリザ、膝をついたままで目を閉じて、両掌を組んで胸の前に合わせます。
そして、体から染み出すように現れた純白の精霊力が、リザの体を包み込んで縦に長い繭のように形作りました。
「……この中で変身すんの? どうやって?」
『先ほどの癒術と基本的には同じですよ。細分化して見れば分かりやすいのですけど、自分の体の細胞一つ一つにバフやデバフの力を持った癒術を重ね掛けするんです』
「そんなん出来るものなの?」
『古のトロルであれば、息をするのと同じレベルです』
「ふーん、そういうもの」
それから待つこと数分。
思ったよりも時間が掛かっていましたから、ほんのちょっぴり嫌な予感が胸を
「きゃぁーっ! リザ姫さまが――!」
「これは想像以上――!」
「「――可愛いーーっ!」」
繭から現れたのは、白い肌をした、それでも背が高めの、掛け値なしの人族美女。
キスニ姫さえ霞むほどの、正真正銘の美女。
「……ど、どうかしら?」
「めっちゃくちゃ可愛いよリザ姫さま!」
「……ちょっとだけ、負けた」
大興奮のカコナと、素直に負けを認めたレミちゃん。
レミちゃんは掌に魔力を溜め、その手で大きく四角くなぞって水鏡を作り出して言いました。
「リザ姫、鏡」
「……なんだか怖いですね」
「怖がんなくて良いよ! ほら、めっちゃ可愛いから!」
カコナに手を引かれたリザが鏡の前に立ち、意を決するように自分の姿に向き合いました。
「こ、これがわたくし……」
時間にしてほんの数秒。
ジッと見入ったリザが少しずつ笑い出します。
「……ふ、ふふふ、うふふ――あは、あははははは!」
私とカコナとレミちゃんが視線を合わせて驚いた顔。
リザらしくない笑い方に、少し驚いてしまいました。
「あははははははっ! あは、あはははははは――」
なかなか笑い止みません。
二百十センチあった背の高さは百八十センチほどに、百四十五キロあった体重は恐らく七十キロほど。
トロルの中でもバルク派筆頭と言えたリザの体は、美しく引き締まったフィジーク派の体へ。
さらに腫れぼったかった一重の目はクリっと二重に、大きく鷲鼻だった鼻はツンと高く聳え、なんでも噛み砕けそうだった頑健な顎はシャープながらも可愛らしく丸みがあります。
笑い出したくなるのも頷ける美しさ。千人に問えば千人ともが美しいと答える絶対的な美女。
「あはははは――ははは、はー、
ようやく笑いを収めたリザに、恐る恐るカコナが声を掛けました。
「リ、リザ姫さま? だ、大丈夫?」
「ええ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね」
大丈夫でしょうか。
この美しさですもの、魅入られたとしてもおかしくないですが。
「どう見てもね、わたくしじゃなかったから、もう可笑しくって」
「めっちゃくちゃ可愛いよ、リザ姫さま!」
「ありがとうカコナ。けれど、もう充分に満足です。協力してくれたお二人には申し訳ないですけど――」
自嘲気味にリザが微笑んで続けます。
「――元のわたくしに戻ります。その上で、アレクに気持ちを伝えますわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます