第51話「アレクの事が」


 変身してバルクダウンしたと言っても、さすがにそれは無理があると思いますよ?


 リザはやって来るアレク達から身を隠すために、カコナとレミちゃんの後ろで背を丸めて目立たないようにと考えたらしいです。


 けれど二人に比べたらまだまだ大柄ですからね。


 以前に比べれば筋肉はずいぶんとシャープになって肩幅もぐんと小さくなりましたけど、背の高さはそれでも百九十センチほどもありますから。

 百六十にも満たない二人に隠れるのは、ちょっと、ね。


 そう言えば今のリザはロンと同じくらいの背丈ですね。


「レミ! なんで黙って森へ行くのさ!」

「女の子にも色々ある」


「そうかも知れないけど! ……って、どうしてリザ隠れてるの?」


 二人の後ろでなびく紅髪のせいか、やっぱりあっさり見つかりました。そりゃあそうですけどね。


「姫! 部屋で休んでおられるものと思っておったら知らぬ間に森なんぞへ! ジルめが白状したから良かったものの、もう少しで国中総出で辺り一体の捜索に出るところでしたぞ!」


「ニコラ、ジル婆やは悪くないの、わたくしが我が儘言ったのですから!」


「……は? ……姫が……わ、我が儘……?」


 おや? しっかりめに怒っていたニコラが固まってしまいましたよ? 頭の血管でも切れたのでしょうか……。


「姫が我が儘を! じ、爺めは……爺めは――」


 再び喋り始めてホッとしましたが、ちょっとニコラ、変な間を取らないで下さいよ。


「爺めは嬉しゅうございますぞ! あの……あの姫が儂らを困らせるような我が儘を!」

 

 うぉーんうぉーんとニコラ爺やが泣きながらそう叫びました。

 もっと盛大に怒られると思っていましたから、ちょっと拍子抜けですね。


 十四の時からこの国の為にリザは生きてきました。

 リザを目に入れても痛くないニコラにとってみれば、普通の女の子のようにもっと我が儘言わせてあげたかったのでしょうね。


「姫! 爺めは――!」


 感極まったニコラがカコナとレミちゃんを手で押しのけます。


「爺めは嬉しゅう……――なんじゃその姿はぁぁ!?」


 はい、見つかりました。


「姫……? なんじゃその頼りないバルク……、あの美しかった姫の姿はどこへ……何がありなさったのじゃ!?」


「エリザベータ姫……? ほう、これはとても美しく……、やはりエリザベータ姫とも男女の仲に――」


「リザ……? ………………確かに、リザ、だけど……………………」


 リザの姿を目にした三人は、それぞれがそれぞれの想いを呟きます。

 ニコラはきっとそう言うと思っていました。


 ロンは……敢えて何も言わないでおきましょうか。


 アレクは、どうでしょうね。


 たぶん、リザの本心で言うと今の姿をかなり気に入っていると思うんですが、問題はアレクですよね。


 アレクはリザへと近寄って見上げ、何を言うべきか悩む素振りを少し見せた後で口を開きました。


「…………リザ。ずいぶんと姿が変わっちゃったけど……元に戻れるんだよね? トロルの『変身』ってやつなんでしょ?」


「――ちょっとアレクちゃん! ずは可愛いって言ってあげ――」


 カコナが語気荒くアレクに言いますが、アレクはそれに対して落ち着いて、誰に言うでもなく言いました。


「僕は前のリザが大大大大大大っ好きなんだよ。世界中の誰と比べたって前のリザが一番いっちばん好きさ。…………だから、今のリザは世界で二番目に好きだよ」


 なんとなく難しい空気が流れました。

 アレクの言い分は、皆んななんとなく分かるようですが。

 今のリザも世界で二番目に好きと言ってくれたのは、リザの性格や考え方、中身も好いてくれているからなのでしょう。


 けれど、まぁ、今しばらくは元の姿に戻れませんが、いずれは元の姿に戻れますし、そんなに大きな問題はありませんかね。



 と、思ったんですけどね――


「――わ、わたくしは…………!」


 ――リザがそんな事を言い出したんですよ。


「わたくしは……――……でも、わたくしの醜い姿は……嫌い……なんです――」


 リザの言葉に一瞬喜んだアレクでしたが、聞き終えた時には目を丸くして驚いた顔。


「醜いなんて事ないよ! リザはリザのままが最高に素敵――」


「――わたくしが! わたくしが……嫌なのです! あの醜いわたくしが美しい貴方の隣に立つ事が!」


 らしくもなく声を荒げたリザに対して、小さい子が泣くのを堪えた様な顔のアレクが、ぐすっと鼻を啜り上げて言います。


「ぼ、僕が好きな……世界一素敵なリザのこと……醜いだなんて何度も言わないでよ! リザのバカ! そんなこと言うリザなんて――もう知らない!」


 リザは驚いて丸くした目から、ツゥっと一筋の涙を流し――、


 アレクは立ったままで地面に顔を向け、ふぐっ、ぐすっ、ひっ、と堪え切れずに泣き出してしまいました。



 ……分かっています。


 思っていたよりも酷くなった今のこの状況、私がなんとかしなくては。

 私が余計な事を教えたばっかりにこんな事になってしまったんですから――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る