第35話「嬉しそうでもないアレク」
「アレックス様! 探したでござるぞ!」
現れた騎馬の男性は、今は亡き馬畜国ザイザールの騎士口調でそう言って、ヒラリと馬から降りました。
この方がウル姉弟の弟さんですね。
ザイザールの民らしい、アレクと同じ真っ黒な髪を短く整え、バルク派というよりはフィジーク派――シャープに引き締まった細マッチョ――な体は服の上からでも分かるほどにピシリとしています。
美形という訳ではないですが、人族視点で見ればなかなか良い男ですよ。
「アレックス様はじめジン殿にレミ嬢、ご無沙汰だったでござるな」
「よぉ、久しぶりじゃねえのウル弟。慌ててどこ行こうっての?」
「どこへという事ではありませぬ。貴方がたを探していたのでござるよ」
「何かあったの?」
ウル弟さんはカッと目を見開いて、アレクの両肩をむんずと掴んで言いました。
「アレックス様! 何かあったのではないでござろう! 魔王が復活したんでございましょう!?」
ああ。魔王復活の危機は去った、という旨を持った後続の伝令に出会わなかったんですね。
途中で出会うだろうとみんなタカを括っていたんですけど。
「あ、ああそうだよね、その事だよね。それなんだけどさ、デルモベルトはもうやっつけたんだ」
「――な? それは一体……?」
三人にウル弟さんを足した一行は、引き続きのんびりと歩いてアイトーロルを目指し歩き始めました。
道々ウル弟さんへアレクから事の顛末を、虚実綯い交ぜに説明し、とりあえずは状況を理解して頂いた様ですね。
「そうでござったか。そのアレックス様たちが目にされたデルモベルトはお化けで、また新たな魔王……ジフラルトとかいう魔族が現れたと……」
「そ。だから持ってきてくれた精霊武装が無駄になる事はないよ。持ってきてくれたんだよね?」
「キスニツプヤ様がお持ちでござる」
「え……、キスニも来てるの? という事は……」
「もちろん姉もこちらへ」
「ウル姉ちゃんも来てんのかよ!」
ウル姉弟のお姉さんに、さらにキスニツプヤ姫も見えられていましたか。
どちらもお会いした事はないですけれど、噂ぐらいは知っています。
アレク幼少期の乳母であるウルお姉さんは今では、
幼くして勇者として名を上げたアレクを育てた乳母。それをアネロナ首脳陣が評価してのオファーだったそうです。
「姉はともかく、キスニツプヤ様自ら参られてござりますゆえ、少しお急ぎくださいませ」
「……うーん、まぁ、しょうがないか。キスニ達は王城?」
「いえ、アレックス様がお過ごしの街を見て回ると仰せでござった」
なんとなく乗り気じゃない様子のアレクです。理由はキスニツプヤ姫でしょうか? それともウルお姉さんでしょうか?
どちらにせよ会うのは久しぶりの筈ですから、もう少し嬉しそうでも良い気がするのですけど。
まあ、街まで戻れば分かりますよね。
私はひと足お先に戻って様子を見るとしましょうか。
アイトーロルの街へ戻ると、少し日が傾き始めましたが、日暮れまではまだ十分という頃でした。
様子を見ようと街まで戻ってはきましたが、ウルお姉さんとキスニツプヤ姫――面倒なんでもうキスニ姫で良いですね――がどこにいるのかすぐには分かりません。
わた――女神ファバリンの加護篤き者の様子しか私には覗けませんからね。
ちなみにロンの様子も覗けますが、元魔王のロンでさえ既にファバリンの加護が篤いのは、さすがその存在の全てが優しさでできていると評されるファバリン故でしょう。
ですからとりあえず、ギルド近くの広場で辺りを窺っていると、リザとカコナが訓練場から揃って出てきたところに行き合いました。
百六十センチ強のカコナがふんぞり返って肘を張り、二百十センチもあるリザがそのカコナの肘に腕を絡めて登場しました。
何をやってるんでしょうね?
「……ご、ごめんリザ姫さま。ちょっと無理があるみたい」
「そうですよね。やはりわたくしが男役をやりましょう」
「それはなんだか嫌なんだぁ〜……だから、こうしよ!」
カコナはリザの手のひらを、指を絡めて握りしめました。恋人つなぎってやつですね。
「デートだからね!」
「まぁ! カコナったら!」
そのままお茶をしたり、服屋さんを物色してみたり、しばらくは二人の微笑ましいデートの様子を見守っていましたが、特に
この間のカルベもなかなか良かったんですけど、女の子なのにリザの理想のデートをエスコートして見せたカコナは男前ですね。
そしてリザが理想のデートを続けていると、なぜか再び訪れるトラブルの香り……。
ファバリンの大木から俯瞰で見てるとよく分かるんですけれど、さらに広場付近へと向かう二つのグループ。
一つは急いで戻ってきたらしいアレクたち、さらに一つは恐らくアネロナからの一団。
そして家具屋を覗くリザとカコナ。
まぁ、どうせひと悶着あるんでしょうねぇ。
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