第34話「あれってオマエんとこの」


 リザとカコナは訓練終わりに街へ繰り出す事を約束し、それぞれが訓練場へと向かいました。


 なんとなく良いですね、こういうの。


 そう言えばリザには友達らしい友達というのがいません。

 トロルの者たちは基本的に臣下の間柄ですし、他種族が多く住み着いたのもアイトーロルにギルドの支店ができたこの十年ほどの事、リザは十四の頃から国のために生きてきましたからね。


 嬉し恥ずかしさがよく分かる表情のリザでしたが、きちんと集中して新人指導にあたるべく、両頬をパシンと手で叩いて気持ちを引き締め直していました。



 そう言えば、そろそろアレクたちが戻る頃でしょうか。

 ちょっとそちらを覗いてみましょ。




 アレク達はアレク達で新たな魔王ジフラルトの話なんかもきちんと共有していましたが、けれどロンがデルモベルトだった事についてはジンさんやレミちゃんにも内緒にしています。

 それはアレク、リザ、ロンの三人だけの秘密、って事になっていますの。


 アレクたちは今回、この間レダを屠ったマナスポットまで出向き、その後なにか異常が出ていないかだけを調査し戻る予定だそうです。


 三人はすでに目的を済ませ、特に問題もなかったようでアイトーロルへ向けてのんびりと歩いていました。


「自分が魔王とか言ってた、あのやたら綺麗なにーちゃんがロンってんだろ?」

「そう。やたら綺麗なロン様」


 あら、ちょうどロンの話をしてるところの様です。

 そう言えば魔王本人だ、とロンが言い放った時にジンさんもいてましたね。結局、有耶無耶にして放ったらかしにしてますが、ジンさん以外にも耳にした国民がいましたし、そのあたり何かフォローがいるんじゃないですかね。


「ロンが魔王な訳ないじゃない。ジンは何言ってるのさ」

「ってオメエが言い出したんだろうが。……つっても俺は信じてなかったけどよ」


 ああ、なるほどです。全力で知らんぷりする方向なんですね。まぁ確かにその方がボロが出なくて良さそうですよね、なんとなく。



 その後も如何いかにロンの造形が美しいかについて、レミちゃんなりに言葉を尽くして二人に伝えました。


「とにかく綺麗。美しいし綺麗。ちょっと影がある綺麗で、かっこよくって、なんと言っても綺麗」


 アホな子みたいな語彙の少なさになっちゃってますね。

 元々はアレクみたいな美少年を脳内で密かに愛でる事を趣味にしていたレミちゃんですから、ちょっとしたきっかけでこうなる事も必然だったのかも知れませんね。


「けどこないだロンがさ、『リザ姫とも男女の仲になりたい』みたいなこと言ってたよ? バカなこと言うもんだからうっかりレイピアで切り刻んじゃうとこだったけど」


「…………それ、正確?」

「うーん、そうだね。ほぼほぼ合ってると思うよ」


「だったら『も』があるから大丈夫。ロン様はリザ姫とも、レミとも、男女の仲になりたい。きっとそう」


 確かに『も』ありました。レミちゃんの名前を含んでたかどうかはアレクが斬りつけたせいで分かりませんけど。


「そんなんでオマエは良いのかよ」

「良い。二番さんでも三番さんでも。なんなら四番さんでも可」


 ……アレクに負けず劣らずヤバめのレミちゃん、ってイメージでしたけど、なんならレミちゃんの方がキマってるかも知れませんね。



「ロンってそんなに良いかなぁ?」


「レミにとってロン様は、アレクにとってのリザ姫みたいなもの」

「レミにとってはロンがそうって事かぁ。なるほど。なら理解できる」


 リザに置き換えられた瞬間にアレクがレミちゃんの気持ちを理解して、その後は一緒になって意中の相手がどう良いかを捲し立て始めました。


 それを聞き続けたジンさんはゲンナリしていましたが、そう言えば……と続けたアレクの言葉に目をむいて訊き返しました。


「お、おいアレク! 今なんつった!?」

「え? いや、だから、ジンの事が好きって女の子がいたんだよ」


 あ、そう言えばカコナが紹介してくれって言ってましたね。


「マジか!? どんな子だった!?」

「どんなって、リザほど素敵じゃないけどたぶん普通に可愛いんじゃないかな。でも商売女じゃないからジンは好きじゃないと思うよ」


「って……オマエまさか言ったのか?」

「言ったけど? まずかった?」


「ちなみになんて言ったんだ?」

「ジンは商売女が好きだから無理だと思うよ、って」


 ガクリと力なく首を折り、残念さをこれでもかとアピールしたジンさん。

 女の子、紹介して欲しかったんですね。



 そんな風に、わりとどうでも良い事で賑々しく騒ぎながら進む一行でしたが、アイトーロルの方からこちらへ進む何かを見つけた様ですね。


「騎馬が一頭。こっちへ来る」


「何かあったのかな?」

「……ん? あれってオマエんとこの……ウル姉弟の弟じゃね?」


「え、そう? アネロナにいる筈だけど……あ、ホントだ。何か慌ててるみたいだね」


 アレクの母国ザイザールが魔族に襲われた際、幼いアレクを連れてアネロナへ亡命してみせたウル姉弟の弟さんですね。アネロナから精霊武装を届けにきたんでしょうか。


 私もお会いするのは初めてです。

 どんな方なんでしょうね。

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