第25話「仮パーティで森へ」
あ、ちゃんとリザは魔の棲む森に調査へ向かうことを王城へ言い残して来ましたよ。着替えと愛用の斧を取りに戻ったついでという感じでしたけど。
もちろん、そんじょそこらのお上品なだけの姫ではございませんから、『気を付けて行くんだよ』との王の言葉があったのみです。
アレクも一旦は一番亭に戻ってジンさんとレミちゃんの様子を覗き、二人ともゆっくり休めば明日には治るだろうと
国民に知らされてはいませんが、魔王復活騒動の真っ只中だとは思えないくらいに
先頭を行くアレクとチヨおじさんはアレクが色々と話を聞いてもらったり、後ろを行くリザとカコナはガールズトークに花を咲かせたり。
遠足気分でアレクもリザもあまりない経験ですから、なんだかとても充実した顔をしていますね。
「ねえ、チヨの旦那さん。年上の女の人ってどう思う?」
「良いねえ。まだ小せえのに良く分かってるじゃないか。おじさんも若い頃にゃ――」
「ねえ、カコナさん。気になる殿方ですとか好きなタイプとか、そういうのありますか?」
「ワタシは断っ然! 勇者パーティのジン・ファモチ様推し! あのちょうど良いバルクにワイルドな――」
そんな感じに和やかに、時折現れる魔物や魔獣を相手にカコナの戦闘訓練を行いつつ、カコナやチヨさんの手に余るようならアレクとリザが蹴散らして進みました。
久しぶりにリザの斧捌きを目の当たりにしたアレクがうっとりしたりもしながらね。
魔の棲む森の手前、冒険者たちが使う簡易な拠点で食事をとって一夜を明かし、翌早朝、一行は魔の棲む森へと踏み入りました。
しばらく歩きお昼前ごろ、カコナからこんな質問が飛び出したんです。
「ところでアレクちゃんにリザ姫さま。今回は森になんの用事なんですかぁ?」
「え? いや、なんのって別になんて事はないよね。ね、リザ?」
「え、ええ。いつもアレクたち勇者パーティが行なっている調査をですね、パーティのジンさんとレミちゃんが体調不良なので代わりに、わたくし達が、っですね」
「ふーん、そっか」
カコナはあっさりと納得してくれたふうですけれど、何か思うところがある様ですね。
「だからジン様はいなかったんだぁ。ちぇ〜」
「ジンになにか用事?」
「や、用事って言うかぁ――、あ、そうだ! これが終わってジン様も元気になったら紹介して! ワタシのこと!」
このカコナという冒険者、思ってたよりもなかなか姦しい女の子でしたね。
でも元気が良くて直球で、私は好きですよ、そういう子。
「紹介……? カコナって商売女?」
「ぅ゛えっ!? 商売女って……そんな訳ないじゃん!」
「あ、そうなんだ。ならダメかも。ジンって商売女が好きらしいから」
あちゃー。
ジンさんとレミちゃんのせいで、ここに居もしないジンさんの株が勝手に下がっていきますね。
ジンさんに至っては自業自得ですけど。
「商売女?」
コテンと大きめの小首を傾げるリザと、なんとなく全てを察したらしい苦笑いのチヨおじさん。
「ねぇチヨ、教えてくださる? 商売女って何かしら?」
「オ、オレに聞かねえで下せえよっ! 後でロンの奴にでも……いや、今度その
なんだか無駄にわちゃわちゃしますねぇ。
こないだのアレク達もそうでしたけど、魔の棲む森ってホントはもっと厳かな感じの場所なんですけど。
ちなみに、リザがカコナは「さん」付けでチヨは呼び捨てなのは、なんとなくチヨの体格にトロル感があって親近感があるからでしょうね。
「……ん? カコナは冒険者として働いてるのに商売女じゃないの……? ん〜、ま、いっか」
「あ! ここって……、ねえアレクちゃん、ここどう? 言ってたとこっぽくない?」
馬鹿みたいにはしゃいでいた一行でしたが、さすがにプロの冒険者たちですね、カコナの声にキリリと顔を引き締めて辺りを窺いました。
リザだけは魔力探知が全くできませんから、腰を落として戦斧を構え、辺りを警戒する役に徹していますね。
「……うん、カコナお手柄。ここで少し休憩しよ」
「わぁっ! やった! ワタシもうお腹ぺっこぺこ!」
リザと同様に私も魔力の事はよく分かりませんけれど、どうやらここもこの間デルモベルトが姿を見せた場所と同じく、魔力の源であるオドが活性化するパワースポットなんですね。
まぁ、パワースポットと言ったってここはアレですよね――。
「魔力やオドがわたくしには分からないのですけれど、ここってマナスポットじゃありません?」
「そうだよ? これだけマナに溢れた場所だからさ、僕らのオドも活性化するってものだよ」
オドと言うのは、人族や魔族、それに獣人なんかの魔力を行使する生き物のお腹の中にある器官なんです。
ええっと、確かそちらでは、
その
そう考えるとやっぱり魔力って不便ですよね。
蓄えた分を使い切るとまた蓄えなきゃ使えないんですから。
その点、私たちの精霊力はマナがある限り無尽蔵ですし、この世界――メ・ダイシンにマナのない場所は基本的にありませんもの。
「ねぇアレクちゃん――んぐっ! 携行食の干し肉ってさ……、なーんでこう硬くて食べにくいのかし、ら!」
「――う、うん。ホント――だっ、よね!」
目的のマナスポットの一つに辿り着いたので一行は腰を下ろして昼食です。ですがカコナとアレクは硬い干し肉に一苦労しているようですね。
「ごめんねリザ。もっと美味しくて食べやすいものを準備できたら良かったんだけど――」
「え?」
リザは優雅に、ふわふわのパンケーキを食べるかのように、その頑健な顎をもって硬い干し肉を
「美味しく頂いてますわよ」
「さすが僕のリザ!」
チヨさんも容易く食べてはいますけど、リザと違って優雅さの欠片もありませんねぇ。
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