第24話「微笑ましくも美しく尊い」


「無事に牢を出られて良かったですね、アレク」

「ん、まぁね。あのままだったらアネロナに怒られちゃうところだったよ」


 牢までやって来たもあり、警備に向かう寸前のニコラを説き伏せようやくアレクを牢から出す事に成功したところです。


 取り上げられていた精霊武装もなんとか返して貰えて良かったですね。



「……ロン・リンデル。カッコ悪いけど君のおかげだね。ありがと」

「礼には及ばぬさアレックス・ザイザール。魔王の姿を晒した俺にも非があるし、エリザベータ姫の頼みを聞かぬ訳にはいかぬからな」


 貴方たち、アレクとロンで呼び合うんじゃなかったのかしら?

 まだまだお互いに蟠りわだかまりがある様ですね。当然でしょうけど。


「でも偉いわアレク。きちんとお礼が言えるなんて」


「リザは僕のことなんだと思ってるのさ。そんじょそこらの子供じゃないんだからね!」

「うふふ、ごめんなさいね」



 なんだかリザも楽しそうですね。

 これから三人で行う作戦が楽しみなんでしょうね。小国とはいえお姫様ですから、リザにはあんまりそういった経験ないですからね。



「もう二人か三人は欲しいところだな……。だれか当てはありませんか?」


 呟いたロンがリザへと尋ねました。


「非番のトロル騎士団ナイツから来てもらいましょうか?」

「いや、必要ないかもしれませんがトロルの方では魔力感知ができませんから」


「ならジンとレミを連れてこっか?」


 アレクの言葉にリザとロンが顔を見合わせて、昨日のことを思い出して苦笑を浮かべました。

 そうでしょうね。

 リザだけでなくロンにとっても苦笑の出来事でしたよね。


「お、お二人はまだ休んでらっしゃると思いますわ!」

「そ、そうだ! ジン殿とやらはともかくレミ殿は昨日かなりお疲れの様に見受けられたぞ」


 ジンさんは駄目二日酔でしょうけど、レミちゃんはリザの癒術の効果がありますからもうじき回復すると思いますけれど、二人からすれば進んでメンバーに入れようと思うにはもう少し時間が欲しいところでしょうね。


「ならばギルドで依頼を出しましょう。まだこの時間であればたむろしてる冒険者もいるでしょうし」





「いよぉロン! 夕べは世話んなったな!」


「やぁ、チヨの旦那。いつもこんなにのんびりなのか?」

「そういう訳じゃねえんだ。今朝はちょいとり好みしてたんだがロクな依頼がなくってよ」


 ギルドの待合いにドッカと座るこのチヨというおじさん。

 猪獣人のレイトウ・チヨというベテラン冒険者です。


 そうなの。昨夜ロンと一緒に楽しくお酒を召し上がったあの猪獣人おじさんが彼なんです。



「選り好みとは……、まさか昨夜の? それは別に良いと言っただろうに」

「お前はそう言うがな、やはりそういう訳にもいかぬ。自分で言うのもなんだが何せ食い過ぎ飲み過ぎてしまったからな。ガハハハハ」



 昨夜二人はたまたま相席になっただけなんですが、雑談から盛り上がって酒宴のようになって、結局しこたま呑んだんですよね。チヨの旦那が。


 それをそれぞれがそれぞれで飲み食いした分を支払おうとしたんですけど、チヨさんのお金が足りなくて割り勘にしたんですよ。


 だからチヨさんにしてみると『ロンに借金がある』という感覚なんですよね。律儀ですねぇ。




「なら旦那。俺たちがこれからギルドに出す依頼を受けてくれないか?」




 とんとん拍子に話は進み、リザとアレクの魔の棲む森の調査メンバーがあっさり決まりました。

 リザ、アレク、それにチヨの旦那、さらに新人訓練でリザと面識のあった駆出かけだし人族冒険者カコナ・アルの四人です。



「なんだロン。お前は一緒じゃないのか?」

 チヨおじさんの不満にロンが答えます。


「悪いな、調査のために必要な別行動なんだ。遅れて合流する予定だから安心してくれ」


「……危なくは、ない?」

 カコナの質問にもロンが答えます。


「まず大丈夫だろう。いかに魔の棲む森と言ってもだ、トロルの姫と世界を救った勇者の二人が一緒なんだ。これ以上に頼もしい同行者はいないさ」



 ぐぬぬぬ、という顔のアレクがさらに顔を歪めています。


「アレク? どうなさったの?」

「……なんでもない。ロンの奴が目立って腹が立つなんてこと全くないよ」


 まぁ、アレクったら。ロンばっかり目立っちゃってますからしょうがありませんかね。

 そのアレクへ、ロンがソッと耳打ちしました。


「――じゃあそろそろ行ってくれ。手筈通りに頼む。分かってるな?」

「分かってるよ。森の手前過ぎず奥過ぎずで、一定以上のマナのある所、でしょ」


「ばっちりだ」


 すらりと背の高いロンと、まだ背の小さいアレク。

 二人の美青年と美少年が交互に腰を折ったり背伸びしたりしながらお互いの耳へ口を近付けて耳打ちする様子は、微笑ほほえましくも美しくて果てしなく尊いです。


 見てるだけで顔面が熱くなっちゃいますね。

 私だけじゃなくてほら、リザもカコナも、なんだったらチヨの旦那まで頬を赤らめて見守っていますもの。

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