第26話「お化けと魔族」
昼食をとって少しのんびりと過ごし、一行は英気を養いました。
魔力消費の激しかったカコナは特に、一気に魔力を回復できたようで生き生きとしていますね。
リザがこっそりアレクに耳打ちします。
「ねぇアレク? ここでぼんやりしていれば良いのかしら?」
「その筈だよ。ロンの作戦だと、最初に見つけたマナスポットで待機してれば良い、って聞いてるから」
高くはないながらも女性らしいリザの声で囁かれたアレクはうっとりとだらしない顔をしながらも、声に
……なんて言うか、別に構わないのだけど、アレクはもう相当ですね。
と、その時。
「――うひゃぁっ!」
カコナが上げた声と同じタイミングで周囲の木々から一斉に鳥が飛び立ちました。
「リザ、来たよ!」
リザを除く三人に緊張が走ったようです。
マナスポットの時もそうでしたけど、誰よりも早くカコナが反応していましたね。
魔力感知の点で優れている様ですから、
「そこに隠れてる奴! 出てこい!」
アレクが振り向いて、いつのまにか拾っておいたらしい石
カツーン、と音を立てて石の跳ねた木の後ろから、誰のものだか声が響いてきましたよ。
『クククク……。さすがは勇者アレックス・ザイザールと言ったところか』
ゆっくりと木陰から姿を見せた者、それは私の記憶にもまだ新しい、陰鬱なオーラを身に纏い、側頭部の二対の角、浅黒い肌にそこそこ良い具合にバルクった魔族でした。
「誰かと思ったら……、去年僕にやられた魔王さまじゃないか。わざわざこんな所までどうしたんだい?」
『クククク。昨年はよくも我を殺してくれたな』
そんな、まさか、なんてカコナとチヨさんが小さく叫びを上げ、そして身を震わせて後退りを始めました。
それで正解ですよ。
万が一デルモベルトとアレクの戦闘が始まれば、二人は間違いなく、リザでさえも足手まといになりかねませんから。
……と言ってもね。
辺りに漲る魔力がぶつかり合う様だけはホントですけれど、アレクもデルモベルトも演技的には学芸会レベルの茶番ですよ、これ。
「もう一度僕にやられに来たのかい?」
ここからが本題ですかね?
『……いや。我は昨年、貴様に殺されて間違いなく死んだ。もう一度殺されてやる事はできん』
「へぇ。じゃ、
ニヤリと笑んで見せた魔王デルモベルトが続けます。
線の細いロンの姿よりもワイルドなバルクでちょっと素敵ね、なんて言ったら怒られちゃうかしら。
『我の『魔王の種』は……、我が弟に受け継がれた』
「それは……一体どういう事?」
『新しい魔王が現れるという事だ。我はな……、それを聞いた貴様の
「「な、なんだってーっ!」」
カコナとチヨさんと、調子に乗ってきたらしいアレクの声が揃ってそう叫びます。
「すぐに次の魔王がやってくるって言うのかい?」
『すぐ……? いや、魔王の種が馴染むまでにしばらくは掛かるだろう。しかしそれでも数年後にはやってくるがな! クハハハハ!』
アレクだけでなくロンも調子に乗ってきたようですね。
二人ともなんだかとっても楽しそうに見えるのは私だけでしょうか。
アレクはともかくロンも楽しそうなのは意外ですね。
しかしです。
唐突ですけれど、どうやら楽しい時間とはお別れせねばならない様です。
「こ〜れはこれは面白いところに
「――どなた!?」
さらに聞こえてきた声に対して、リザが体を向けて戦斧を構え直しました。
誰でしょうか? ロンの策ではもうほとんどこのイベントは終わりの筈なんですけれど。
「ははぁ、この大きなレディは……、アイトーロルのエリザベータ姫でございましょうか。それに勇者アレックス、さらに
森の暗がりからゆっくりと姿を見せたのは若い魔族の男。
元より細い目を糸のようにさらに
「それにしても、驚きましたねぇ」
魔族の男は大袈裟な身振りとともに高らかに言います。
アレクとロンの学芸会レベルのお芝居よりも
「あの『魔族嫌いの前魔王さま』が! 麗しきジフラルト様の登場を予言し! さらには御自分を屠った勇者に向けて覚悟し怯えよと! 素晴らしい! 実にエェクセレェントォォゥ!」
纏う黒衣の裾をバタバタとはためかせてそう叫びました。
……どうやら新しい魔王――ジフラルトとかいうのに近しいポジションにいるらしき魔族の様ですけれど、これはまた痛々しいのが来ましたね。
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