第12話 リディア

 私は夜空を見上げる。

 ある程度時間の経過が分かるからだ。


「そろそろまずいかも…」


 私は予定外の時間経過で焦りが出てしまう。

 少女は私が見上げたように空を見た後、聞いてきたのだ。


「まずいって、どうしたの?」


『声に出しちゃったのね…』


 この身体は偶に思ったことを抑えれない為、少女の言葉から声に出したことを理解した。


「こちらのはなしだからだいじょうぶ!」


「助けてもらった以上、私にできることあれば言って欲しいかな?」


「むむっ…」


 私は悩む。

 折角知り合えた運命を利用するかどうかを悩んだのだ。


『私に魔力眼があれば、色々適性が見えるんだけどね。どうしようか…一応計画に入れてもいいけど…』


 魔力が多く、魔法使いとして優れるなら私が表に立つことなく、神様の話を進めることもできる。

 神様は優先しなくてもいいと言っていたけど、できる限りは行うつもりだ。


「あなたのおなまえおしえて?」


 とりあえず保留として、名前を聞くことにした。


「あっ!私ったら名前名乗ってなかったね。私はリディア!街外れに住んでるんだ!」


 少女は立ち上がり、そう名乗った。

 その際、月明かりに照らされた少女リディアは髪が輝いて見えた。

 直感でしかないけど、目を奪う輝きを信じてもいいかもしれない。


「りでぃあ、おぼえた」


「じゃあ、次はあなたの名前教えてくれる?」


 へっ?

 予定外だった。


 これまで私自ら名前を名乗る事は少なかったからだ。


『何も言わないのも変だし、全部伝えて面倒になるのも想像できる…それなら名前だけ伝えようかな…』


 色々考えた結果、貴族ということを伏せようと思ったのだ。


「わたしはあにえすだよ」


 立ち上がるリディアを見上げる状態で名乗ったのだ。


「アニエスちゃんだね。それにしても…」


 想定外の返しが返ってくる。

 それはちゃん付けで呼ばれた事だった。

 

『ちゃん…悪くない呼び方かも…心がポカポカするお母様とお話ししてる感じかな』


 そんなことを口にするのは恥ずかしい。


 小さな頭を左右に振り、思考を切り替えるとリディアは立ったまま座らず、更に言うなら私を見続けていた。


 顔が少し赤くなっていた事から、怪我が治っていない?それとも私、変な事言ってた?と気になり聞いてみた。


「りでぃあ!」


「ひゃい!!」


『脅かすつもりなかったんだけど…』


 声をかけただけで身体が跳ねるように飛び上がり、声にならない言葉で返事が返ってくる。


「からだいたむ?なおってない?」


「えっ、いや…私、って、完全に擦り傷も治ってる!?」


 リディアは私の問いに身体は問題ないと表現するように手を回した。

 その際に痛みが全くなく、逃げる際に付けた擦り傷がなくなっている事で驚いたようだ。


『ちゃんと回復薬効いてるね。なら何で顔赤かったんだろ?』


「どしたの?何があったの?」


 これは反則行為だろう。


 私は問いかける言葉に魔力を乗せる。

 ある程度の魔力を持つ者なら跳ね除ける言の葉、それは精神感触に近く、思っていることを喋らせる禁じ手だ。


「ずっと見ちゃってごめんね。私変なこと言うかもだけど、目を離せなかった…というか、その…お、お人形みたいで可愛くて…持ち帰りたい気持ちになっちゃったと言うか…って!私何言ってるの!!」


『言わせたのは私だけど、この子何言ってるの…持ち帰りたいってちょっと怖いよ!』


「わたしかえるね…」


 言わせてしまった事と言われた事で居た堪れなくなり、この場を去ろうとした。

 だが、立ち上がった瞬間に私の身体はリディアの両手に阻まれる。


「ご、ごめん!変なこと言っちゃったけど、そんなつもりないから!変な子って思わないで!逃げようとしないでよ!」


「くるしい!つぶれるぅ!」


 リディアは恥ずかしさから無我夢中で私を抑えつける。

 それは息苦しいと言うより、潰れる感じだ。


 可能な限り、両腕で暴れるけど、身長という体格差、更には力の差でもがくことしかできなかった。

 魔法を使えばすぐに脱出可能だけど、リディアを傷つける可能性が高く、敵意があれば躊躇しないけど、この状況を作ったのは私だからと使うことをやめる。

 しかし、状況は解決するわけもなく、次第に息苦しさが増すと頭がぼーっとし始める。

 両手がだらーんとなり、リディアの身体に軽い体重を預けるとリディアは慌てるように私を解放したのだ。


「ご、ごめん!本当にごめん!アニエスちゃん!生きてるよね!!」


 取り乱して両手で私の身体を揺すり始める。

 何度も謝り、更に目から涙が出ているのか、私の顔にポタポタとかかった。


「うう…いきてるよ…しぬところだったけど」


「よかった!なんで私こんなことしちゃったんだろ…本当にごめんね…」


 涙を流しながらリディアは謝る。

 もしかすると、言の葉が何か悪さをした可能性があるかもしれないと私は思うと、リディアに頭を下げてと伝えた。


「うん…これでいいかな?」


 何をされるのかとビクビクしていたリディアの頭は私の手が届く高さまで下がっている。


「これでおちついて」


 罪悪感から泣いていたリディアの頭を私はつま先で立つことで手を上に乗せると撫でながらそう言う。


「ひゃっ!!」


 その行為は予想していなかったのか、リディアはまた驚くような声を出すと、すぐに大丈夫と言って頭を上げた。


「も、もう大丈夫だから!ありがとう…」


 言動と言葉が違うように聞こえる。


 しかし、改めて聞くわけには行かない。

 ゲームなら気にしない行為も生きている人に強要させる言の葉は使う私自身心が痛む。

 今回使って、そう感じたからだ。


 リディアは月明かりに照らされ、顔がよく見えた。

 それは先程よりも赤くなり、リディア自身も気がついているのか、両手で頬を抑えると身体を震わせていた。


「落ち着け私!何か変!魔法のこと考えれば落ち着けるはず!」


リディアは自問自答するかのようにそう言いつつ、頭を左右に振っている。


 私はその行為よりも言葉が気になった。


「りでぃあ、まほうすき?」


 私は普通に聞いた。


「へっ?って、今更だけど、アニエスちゃん凄い魔法使ってたよね!!」


 言の葉に魔力を乗せていないはずだけど、リディアは私の問いかけに思い出したような言葉を聞きながら、私の両肩に手を置いた。


「ひみつだけど、まほうとくいだからね」


「そうだよね!知らないような森を飛びながら一瞬で助けてくれたし、擦り傷治る飲み物も持ってたし!アニエスちゃんってもしかして神様なのかな!!」


 興奮は両肩の手から熱く伝わる。

 私の直感は悪くないようで、リディアは魔法が好きなようだ。


「私ったら、またごめん…」


 リディアは自制したようにシュンと力を抜いてそう言う。

 リディアの話を聞きたかったけど、夜空は少し明るくなり始めていた。


『時間まずい!』


「りでぃあ!まほうのおはなしつぎするから、きょうはかえる!じかんがない!」


「えっ!時間?ってそ、そうだよね!私も帰らないと!」


「つぎいつこれる?」


「また私に会ってくれるの?」


 リディアは喜んでいるようで、表情は和らぎ嬉しいのか両手を上げていた。


「私は四日後なら来れるよ!アニエスちゃんも大丈夫かな?」


「ん!だいじょうぶ!よっかごね!」


 私は四日後にこの場で再会を約束する。

 飛び立つ前に時間は真夜中になったぐらいと伝え、休憩したことにより、魔力はある程度回復したので、勢いよく飛行魔法で空を飛ぶと部屋に戻った。


『やばやば!誰も部屋に来ていませんように』


 ゲームならプレイヤーにぶつかるような荒い飛行だったけど、誰にもぶつかる事もなく、空いた窓から部屋に戻る。

 窓が閉じられていない事やシーツを捲られていない事でホッとしながらぬいぐるみと変わるようにベッドに戻った。


『リディア、いい子で…マリエルの次ぐらいに可愛いかも…』


 そんな事を考えた途端に何かの魔法がかかっていると思うほど、全身の力が抜けて意識は曖昧な夢の世界に溶けたのだった。

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ゲームの世界から異世界へ、NPCが人に生まれ変わり自由に生きる(仮) あいか @nemunemuizo

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