第11話 出会い
私は重たく感じる身体を起こし、目を擦る。
辺りを見渡すと部屋に戻っているようでベッドの上だ。
「なにがあったっけ…」
朧げな記憶を辿ると、書庫で急な頭痛が発生した事を思い出した。
神様と交わした記憶保存、それは激痛という表現では生ぬるく、手元に武器があれば自決も選びそうで怖かった。
窓からは月夜の光が入り、今が真夜中という事が分かる。
「ねむくないし、ためしにいこうかな」
頭痛が起きなければ、夜に腕輪を試すつもりだった。
未知の道具は早めに確認を行いたい。
今も腕に付いたまま外せないから、何かデメリットがあるなら早めに知りたいし…
でも様子を見に誰か来るかもしれないし…
何度も考えを繰り返していた。
私は知りたい気持ちが勝り、一応保険をかけるように近くにあるよくわからない動物のぬいぐるみをベッドに置くと上にシーツをかけて一見人が居るように偽装する。
室内用の靴から外用の靴に履き替えて準備完了
時間をかけるつもりはない為、すぐ戻れば大丈夫と自分自身を納得させるように考え、窓から飛行魔法で飛び立った。
夜独特の雰囲気を感じつつ、夜風の心地よさに生きている事を実感できる。
月を見れば程度の時間は分かるので、予め決めた時間を超えないよう早めに魔法を試そうと頻繁に使用している森の中へ飛んで行く。
ふわり、地面に降りた。
『さて始めよう』
特別な腕輪を月夜に翳し、宝石のような装飾が光る。
反射する光は美しく、見惚れてしまいそうだ。
ある程度、この腕輪の事を考えている。
おそらく各属性に反応するはずだけど、部屋の中では確かめれず、ウズウズしていたのだ。
腕輪に魔力を送り、火属性下級魔法、ファイアボルトを発動させる。
短距離向けの魔法で、火の矢を作り投げる扱いの魔法だ。
腕輪がついている方の手を空に向けると掌に火の矢が生成される。
遠くを攻撃するならアロー魔法の方がいいけど、近くならボルト系が隙も少ないので丁度いいのだ。
少し離れた岩に向けて矢を掴むように投げた。
発動事は熱さを感じず、そのまま直線に飛んで行くと岩に当たり爆ぜるように散った。
『ん?ん〜特に変化なさそうだけど…』
腕輪をはめている事で何か特殊効果や威力増大を期待していたけど、何もなく火は散って消えたのだ。
『おかしいな…アクアボルトなら!』
他の属性も試そうと水の矢を作り投げたり、岩、風、光、闇と変えながら岩を攻撃した。
『はぁはぁ、予想と違うよ!特定魔法しか反応しないとか?それだと鑑定スキルがないと分かんない!!』
生まれて初めて地団駄を踏む。
下級がダメという事だろうか、そんな事を考えていると近寄る気配を感じた。
『何か近づいてる!隠れなきゃ!』
今まで一度も動物すら遭遇しなかった森で、突然のエンカウント。
見つかると面倒なのは間違いないはずだ。
小走りで的に使っていた岩の後ろへ隠れると、やり過ごすために息を潜める。
タッタッタ!!
少し荒々しい足音が近づき、人の足音だと理解する。
『誰だろう?人の事言えないけど夜中だよ?』
岩から少し顔を覗かせて見ていると、近づく足音の主は小柄な少女だった。
『!!』
全力で走り満身創痍な少女は岩に近寄る最中で躓き転んだ。
私の魔法が爆ぜた時に周囲を抉った所で躓いたのだ。
『ああ…ごめんね…すごく痛そう…』
少し罪悪感を感じながら起き上がるのを見守っていると異変に気がついた。
私は当たり前の事を見落としていた。
少女が全力で急ぎ走る理由、それは何かに追われていたから、それから逃げるためだった。
集中していれば気がつけれたはず、それなのに気がついた時には私の視界にも捉えれるほど近くにいた。
『見た事ない魔獣?いや、魔物かな、ってそんな事考えてる場合じゃない!』
転んだだけなら原因が私の魔法だったとしても見て見ぬふりをしようと思っていたけど、状況が変わった。
転んだ事で足を痛めたのか、少女は身体を震わせながら、地面を擦るように離れる。
「いや!!近寄らないでよ!お願いだから!」
力を振り絞った声は涙を堪えているのか震えている。
できる限り、私の事は人にバレたくなかったけど、助けようと決めた時には既に身体が動いていた。
岩陰から飛ぶように出ると、この世界の魔物なら下級魔法で十分だと思い、空中でファイアボルトを生成すると魔物に投げつけた。
赤い火は一直線に魔物へ飛ぶと体に刺さり、鏃は即座に突き刺した内側から火で燃やす。
魔物は地面を転がり消そうとするが、それより先に絶命したのだ。
それと同時に私は地面に着地した。
「はへ?わ、私助かったの?」
少女は咄嗟の出来事に処理が追いついていないようで、気が抜けたことから言葉にならない声を出し、その後助かった事を理解したようだ。
「うん、あなたいきてるよ。けがある?」
私はくるりと振り返り、地面にお尻をつけたまま呆けている少女にそう聞いた。
しかし、返事が返ってこない。
驚きから目を見開き口をぱくぱくさせている。
「おーい!きこえてる?」
改めて首を傾げながら問いかけると、数回目をぱちぱちさせた後、夢?と少女は言葉にした。
「私実は死んで夢見てる?私より幼い子がこんな時間に森の中で魔物を燃やしてって!わけわかんなくなってきたよ…」
『ふむ、現実逃避しているようだね』
「げんじつ、ゆめじゃないよ」
このままだと埒が開かないので、私は小さな歩幅で近寄ると直接怪我を確認することにした。
「けがしてるかみせてね?」
「た、だめ!今はダメ!!私、大丈夫だから、怪我してないから!!」
必死に慌てて私が近寄る事を拒んだのだ。
「わたし、まものじゃないよ」
「そうじゃなくて…躓いた時に…」
少女は少し恥ずかしそうにモジモジしながら喋った事である程度意味がわかった。
追われていた理由は不明だけど、私の魔法が躓く原因になった事は間違いない。
魔法見られてるし、隠す必要は無さそうかな?
私はそう決心すると次元収納を使い、回復薬を取り出した。
本で見たような物ではなく、ゲームの産物が現実化した薬だ。
「これ、おくすり、けがなおるよ!」
「い、いらない…」
「そんなこといわないで、のんで!」
「大丈夫だから…」
何もないはずの空間から瓶を取り出した事で少女は驚く声を上げて少し後ろに下がった。
『なんだろう、少し傷つく…』
拒絶したような仕草は私の小さな心を傷つけるような気がする。
一歩進むと少女は後ろに下がる。
それを繰り返して岩が背中に付いた。
「さっきの魔法に怪しい瓶、魔物だよね…」
少女は予想外の言葉を口にした。
それは私の心を砕くには十分な攻撃だった。
胸の中から悲しい気持ちがぶわっと溢れ、勝手に涙が流れていた。
「ひどい…」
ポタポタ流れる涙、感情がうまく操れない、勝手に悲しくなり涙が止まらないのだ。
「えっ!ええ!ごめん!動揺してて!お願い泣き止んで!!私が悪いから!助けてもらって酷い事を言った私が悪いから泣き止んで!」
『私も泣き止みたいけど、涙が溢れて止まらないの!』
私はうわぁぁぁんと泣き続ける。
先程と違い少女はオドオドしながら私にゆっくり近寄る。
大きな口を開けて泣き続ける私を優しく抱きしめたのだ。
「酷いこと言ってごめんね」
少女は足を痛めている為、膝を地面につけながら抱きしめてくれた。
優しく温かい気持ち、心が落ち着いてくる。
「こ、これ飲めばいいんだよね!」
「うん…かいふくやくだよ」
私の涙が収まり、少女は少し怖さが残っているようで、少し声を震わせながら私が握る回復薬の瓶を受け取ると栓を取り目を瞑ったまま飲み始めたのだ。
『味は確認してないけど、大丈夫かな…』
「うっ…うぇ…何この味…」
少女はえずき、相当味がまずいのがわかった。
「そんなにまずい?」
「初めて、なんの味か分からないけど不味い」
「そうていがい!」
想定外だったけど、飲んでくれたから治癒速度は上がるはずだ。
決して治験目的ではないけど、不味いことがわかったのだ。
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