父と娘の物語 2人用台本
ちぃねぇ
第1話 父と娘の物語
娘:ねえパパ。絵本読んで
父:ええ?またかい?
娘:うん、私絵本を読んでくれないと眠れないの
父:でもお前、もう32才だろう。そろそろ絵本が無くても寝付けると思うんだが
娘:年齢なんて関係ないのよ、パパ
父:そうかなぁ…?
娘:いいから、読んで?
父:…じゃあ、これにしようか。ヘンゼルとグレーテル
娘:わーい!
父:昔々あるところに
娘:ちょっと待って
父:え
娘:昔々って、大抵の童話の入り口に置いてある文言(もんごん)だけれど、実際どのくらい昔の話なの?
父:え
娘:中世?近代?まさか古代メソポタミアまで遡(さかのぼ)らないでしょう?
父:えっと…そこら辺は詳しくないかなぁ
娘:年代が決まらないと背後関係が正しく想像できないわ
父:ええっ…困ったなぁ…父さん世界史は専攻していないんだよ
娘:あら、齢(よわい)60間際で知識不足を嘆く(なげく)なんて情けないわよ、パパ
父:うん、32にもなって父親に絵本の読み聞かせをせがむ奴のセリフじゃないよ、それ
娘:ヘングレはもういいわ
父:変な略し方しない
娘:他の話に変えて頂戴
父:ええ…?じゃあ、浦島太郎にしようか
娘:いいわ、私あの話大好きなの
父:大好きになる要素がどこにあるのかわからないけど…
娘:あの、亀を助けたのに最終的に老けさせられるっていう理不尽さがたまらないわ
父:もう結末しゃべっちゃったよ。読まんでええやん
娘:ああでも、あの話はリアリティの欠片もないわよね。亀を助けたお礼に竜宮城に行くだなんて
父:まあ…そうだねぇ…水の中だと呼吸も出来ないし…そもそも竜宮城が海の中って言うのも
娘:人間と亀が意思疎通して「助けたお礼」に甲羅(こうら)に乗ることなんかできるのかしら
父:そこから!?序盤も序盤!そこくらいはスルーして!
娘:大体、成人男性って軽くても50kgは絶対あるわよね?そんな重いものを乗せたまま亀って泳げるのかしら?世界最大の亀「オサガメ」にでも乗ったのかしら?
父:いつの間にそんな要らない知識を身に着けたんだい、娘よ
娘:あら、要らない知識などこの世に無くてよ、パパ
父:少なくとも浦島太郎を読むにあたっては要らないと思うよ
娘:もういいわ、白雪姫を読んでくれる?
父:う、うん…昔むか…しかどうか具体的な年代はわからないけれど、あるとこ…世界地図に載っているかはわからないけれど僕の知らないあるところに、とてもとても美しい魔女が住んでおりました
父:魔女は毎日、魔法の鏡に「世界で一番美しいのはだぁれ?」と問いかけます。すると魔法の鏡は毎日「それはあなた様です」と答えるのでした
娘:ちょっと待って
父:ナンデスカ。魔法の鏡があるかないか、そもそも魔女という存在がいるかどうかのエビデンスは持ち合わせていないよ?
娘:世界で一番美しいって、誰がどのように決めるの?
父:そこかー!
娘:魔女は毎日何かしらのコンテストに出てるのかしら?でもって審査員はいつも同じ人?
父:人っていうか鏡ね
娘:たった一台の鏡の言葉を毎日信じているの?その魔女、ぴゅあっぴゅあなのね!
父:白雪姫の魔女にその形容詞は初めて聞いたなぁ!
娘:毎日毎日「君が世界で一番美しい」なんて戯言(ざれごと)で魔女を誑(たぶら)かしていた鏡が、ある日突然「白雪姫が一番可愛い」とか言い出したら、そりゃ嫉妬で狂(くる)いたくもなるわよね…魔女、可哀そう…
父:そんな感想抱(いだ)いちゃう!?パパの知らない観点ばかり持ってるね!
娘:パパも、誰彼構わず愛を囁(ささや)いてはダメよ?
父:パパはママ一筋35年だよ!?
娘:そうね、重たいくらい愛しているものね
父:重いの!?パパの愛、重いの!?
娘:少なくとも、娘に対しては重たいわ。32にもなった娘に絵本なんか読み聞かせるんだもの
父:もう二度と読まないから安心しろっ!
父と娘の物語 2人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます