結婚
「ヒメカと付き合いはじめたんだってね。」
ユミは寂しそうにいった。
少し機嫌が悪そうだ。
ムクれているのがわかる。
「ごめん。」
「謝らないでよ!。惨めじゃんか!。」
ユミは怒った。
「わかってはいたけど、きついものがあるわね。ははは。」
ユミは、いじけていた。
虚ろな笑い声が、響く。
「な~に、しんみりしてんのよ。別にあたしたちが付き合っててもいいじゃん。ねえ?。」
ヒメカは、おれとユミの様子を見兼ねて、間に入って来た。
この空気でよく、割り込んでこられたなと内心すこし感心している。
「べ~つに、あたしはハルトがユミちゃんと付き合ってても気にしないわよ。ユミちゃんとだったら浮気OK。一夫多妻万歳。」
ヒメカはとんでもないことをいい出した。
「ハルトのバカ~!。」
どうしてか、おれはユミにぶたれた。
ビンタされた。
痛い。
「この、浮気ものの、色男お~!。」
ユミはおれに馬乗りになって、顔面を殴った。
何度も何度も殴った。
「ユミ、もうその辺にしといてあげたら?彼死んじゃうわよ。」
ヒメカは、ボコボコに殴られて瀕死状態のおれをみて、ユミの手を止めさせた。
「あ、ごめん、やりすぎちゃった。」
みるも無残、血塗れとなり鼻の骨がへし折れてしまった。
顔の形が変わってしまっている。
「あいつには、どちらか1人を選ぶとか無理よ。もういいじゃない、2人で尻に敷いていきましょう。」
ヒメカはおれの顔を優しく足で、踏みつけて撫でて見下ろした。
「それもそうねえ。」
ユミは、吹っ切れたのか、満足そうに頷いて、二ヤりと笑った。
「よかったわね。2人の美女があなたのお嫁さんよ。」
ヒメカは、愉快そうに、顔を二ヤつかせて、おれを担架に積んで、ユキのいる病院へ運んだ。
「いやあ、これは酷い。顔が無茶苦茶だ。すぐに手術しないと死んじゃいますね。脳の方にも障害が残るかも知れん。」
ユキは、早速おれを手術室へ連れていくと、強い麻酔を掛けられておれは意識を失った。
「目が醒めたようだね。」
ユキはおれの顔を覗き込んだ。
「ありがとうユキ。」
「まったく、僕がいなかったら、死んでたよ。これで何度目だろうね。ははは。」
ユキは、困ったものだといった様子で、クスクスと笑った。
「ハルト~、ごめんね殴っちゃって。」
ユミが病室に入ってきた。
「大丈夫だよ。ユキのお陰だ。」
「よかった~。ありがとうユキさん。」
ユミは深々をお辞儀をした。
「いいよ。あまりハルトに無茶させないでくれよ、この人たぶん僕がいなかったらすぐ死んじゃうから。」
「そうします。」
ユミは少し反省した様子だった。
病院から出て家に帰る。
「おに~ちゃん!。3人で付き合うの?、結婚はどうするの?三人でする気なの?。」
妹のハルカは、食いつくように目をキラキラさせて、質問してきた。
遠慮というものをしらないのだろうか。
おれたちは同じ家に住んでいる。
今リビングキッチンで食事をとっていた。
ルイさんの作ったカレーライスと鶏のステーキとサラダを食べている。
美味しい。
「結婚かあ。あんま考えてなかった。オホ国って一夫多妻禁止されてるよね。」
ユミは少し間を空けて考え込んだ。
「神様が禁止してるからね。」
おれは、外国で信仰されている唯一神を思い浮かべていった。
オホ国も、その宗教の考えに結構影響を受けていて法律とか、精神とかも、作られている。
「大丈夫よ。もうオホ国はたぶん、ヒメカ教の世界観だから。いいことかはわからないけど―。」
ヒメカは少しむず痒そうにいった。
「神になるしかないとかいっておいて、いざそうなってしまうと、ただ恥ずかしいだけね。ずっと中二病を患っているみたいなムズ痒さよ。」
ヒメカは、困ったように眉を顰めた。
「はは。神様も大変だね。」
ユミは笑った。
「ええ。大変よ。」
どうやら、ユミとヒメカは随分と距離が縮まったらしい。
ユミはヒメカを、畏怖しなくなった。
親しい仲になったのだろう。
「でもよかったよ。お兄ちゃんが優柔不断で。ユミさんとお兄ちゃんは絶対結ばれてほしいって思ってたから。」
ハルカは、胸をひと撫でして、よかったと小さく呟いた。
優柔不断というのは少し胸が痛いが、まあ事実だ。
おれたちは3人で結婚式を挙げた。
式は家族と一部の知り合いとの間でやった。
おれは、ヒメカのお父さんお母さん、ユミのお父さんお母さんに何度も頭を下げた。
「3人で結婚なんてお父さんは認めたくないな。」
ユミのお父さんは結婚に否定的だった。
当然だ。
普通に考えて、おかしいだろう。
おれは何度も説明しにいって、何度も御飯を一緒に食べた。
ヒメカも一緒に。
渋々、ユミの父さんも認めるようになってきて、最終的には、結婚した。
「ハルトくん。ユミをよろしく頼むよ。ユミが悲しむようなことがあったら許さないからね。」
「はい。」
おれはユミのお父さんと握手をして、深々とお辞儀をした。
ヒメカの両親は、少し変だった。
変というより歪だった。
「何よ。今更あたしたちに何のようなの?。」
ヒメカの母はヒメカに、若干の恨みを抱いているようにみえた。
「親に何もいわずに、勝手に家出して、家の金を使ってオホ国を再建なんて、馬鹿げてることして。いいご身分ね。」
ヒメカの母は、ヒメカを愛していた。
愛し方がよくなかっただけで、ただ、それがヒメカにとって重りになっていたのだ。
「あたし結婚することになったんです。」
ヒメカははっきりと母をみて告げた。
「ああ、そう、あなたがねえ。」
ヒメカの母は力なく笑った。
「お父様は?。」
ヒメカは、お父さんを探した。
「仕事だよ。わかるでしょ、あの人は家族よりも仕事だから。」
「ああ、そうだった。」
ヒメカは笑った。
「はは。」
「結婚式、よかったら来てください。お父様にもいっておいて。」
「わかったわ。あんた、幸せになりなさいよ。神様になっちゃったみたいだけど。」
ヒメカの母さんは冗談めかして、最後に少し母親らしい声をかけた。
それくらいしか出来ないのだ。
結婚式にはヒメカの父さんも来ていた。
忙しい中、娘の為に時間を取ったのだ。
ゴミをみるような目でおれはみられていた。
本当に、社会のクズでもみている目だった。
今でも忘れられないくらい冷たい目だった。
ヒメカは喜んでいた。
父が曲がりなりにも祝ってくれていて、少し心のわがたまりが溶けたのだろう。
おれはただただ、完全に見下されていたが。
「お父様、こちらがあたしの夫になるハルトよ。」
ヒメカの父はおれを一瞥すると、話す価値もみる価値もないわといった様子で、そっぽをむいた。
「ははは。」
ヒメカは、笑っていた。
なんで笑うんだよ。
旦那がバカにされてるんだぞ。
まあいいか。
そんな感じで、結婚式が終わった。
おれたちは3人で生きていく。
ありがとう。
オホ国再建神話 無常アイ情 @sora671
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