少し遅めな青春

 「おめでとう、ハルトくん。」

 

 オホンヌ世界会議のあと、ミケーネ先生から、連絡があった。

 おれはそれが嬉しかった。

 ミケーネ先生に褒められるのは、気持ちがいい。

 

 「ありがとうございます。」

 

 おれは感謝を告げて、メールを大切にアーカイブにしまっておいた。

 

 「おに~ちゃん。お疲れ。」

 

 妹のハルカは、おれに抱き着いてきた。

 かわいい。

 

 「お~。いつも通りおれはいただけだけどな~。」

 

 「あはは。ヒメカさん、かっこよかったねえ。」

 

 ハルカは苦笑いした後、昨日のヒメカの様子に少しの憧れと尊敬を抱いているようだった。

 少し畏怖に近い感情なのかも知れない。

 

 「おまえも、オホンヌに住むつもりなのか?。」

 

 おれは、きいた。

 ハルカは、5日前くらいからオホンヌにいる。

 おれが戦争に出るのが心配で、終戦後すぐに駆け付けたのだ。

 

 「おにいちゃんが心配だったんだよ!。」

 

 ハルカは少しむくれた表情をした。

 

 「どうしよう、住もうかな。いい街だよね、オホンヌ。」

 

 ハルカは、少し迷っている様子だった。

 もうすぐ今年で高校を卒業するのだ。

 

 「オホンヌ大学に進学したらどうだ?、合格できるんかは知らんが。」

 

 おれは、ハルカに提案した。

 

 「いいね。学費とかもろもろお世話になります。お兄ちゃん、いいよね?。養ってよ!。」

 

 ハルカは、上目使いで、おれをチラっとみた。

 

 「いいよ。好きにしな。」

 

 「ありがとう、お兄ちゃん。」

 

 ハルカは、おれに身体を擦り付けた。

 相変わらず、身体を擦り付けるのが好きな妹だ。

 

 「学部とかどうすんの?。」

 

 「とりあえず一番難しい学部でいいよ。やりたいこととかないし。」

 

 ハルカは、ずっと遊んで暮らせられたら満足らしかった。

 しかし、頭がいい妹だ。

 おれなんかより全然、頭がいい。

 

 「でも、今年は無理だろ。浪人して来年受けな。」

 

 「うん。大学行くつもりなかったし、試験も受けてないや。」

 

 ハルカは、少し眉を顰めて、にがにがしく微笑んだ。

 

 「ハ~ルト!、戦争終わったね。お疲れ。」

 

 ユミは、おれと妹が話すのをみて、駆け寄ってきた。

 

 「お疲れ、ありがとう。」

 

 おれは、ユミと軽くハイタッチした。

 

 「ユミさん、どうもです。」

 

 ハルカは、軽く会釈して。様子を伺った。

 

 「かわいい、ハルカちゃんももう高校卒業だね。」

 

 「はい~、あはは。」

 

 「まあ、無理せずぼちぼちやってきなよ。」

 

 ユミは優しく微笑んだ。

 

 「ありがとうございます。」

 

 ハルカは、どこかユミを尊敬している節がある。

 お姉ちゃんみたいに慕っているのだ。

 ユミはユミでハルカを妹みたいに、思っている。

 姉妹のような関係だ。

 

 あれから3年の月日が流れた。

 

 オホ国は発展を遂げて、世界一位の大国になった。

 ヒメカ教は、世界宗教になって、信者の数が30億人を超えた。

 これは世界人口の4分の1にあたる。

 世界で、2番目に信者の多い宗教になっていた。

 もやは、ヒメカは神様だった。

 誰もがヒメカを知っている。

 

 オホンヌの街を眺める、高層ビルが立ち並び、人と活気で溢れている。

 オホンヌの人口は3000万人を超えた。

 外から色んな人がオホンヌへやって来るようになった。

 都心はオホンヌに移され、王もオホンヌに住まわれるようになったのが去年の夏のことだ。

 おれたちもその祝いの儀式やらに参加したのを憶えている。

 王はあれども、ヒメカには頭が上がらない様子だった。

 そんな王をヒメカは持ち上げた、傅いて、膝をつき、頭を下げたのだ。

 

 世界中が王を立派な威厳のある存在だと考えた。

 ヒメカはやはりすごい女だ。

 

 おれもそろそろ、この気持ちに決着をつけないとな―。

 

 もうすぐ、ゴールデンウィークがやってくる。

 ヒメカとはじめて出会った日。

 おれは、想いを伝えよう。

 決心していた。

 

 「ヒメカ~。」

 

 おれはヒメカを呼んだ。

 ゴールデンウィークの5月3日。

 6年前の瓦礫塗れのオホンヌからは見違えるように街は変わった。

 あの時と同じ場所だけど、もうあの時とは違い過ぎていた、場所の景色も時間も。

 

 「どうした?。こんなところに呼んで。」

 

 ヒメカは、不思議そうに首を傾げながらおれの後ろを付いて来た。

 

 「おれたちって、付き合ってるのか?。」

 

 おれは、重大な告白でもするように、質問した。

 大切な疑問だ。

 おれたちは、付き合っているのか。

 カップル同士なのか。

 

 「さあねえ、どうなんだろうねえ。」

 

 ヒメカは、話を逸らそうとした。

 少しおれから距離を取って、歩く仕草をする。

 

 「好き。」

 

 おれはヒメカの手を取って、好きを伝えた。

 

 「―。」

 

 ヒメカは黙った。

 

 顔を覗き込むと、真っ赤だった。

 ヒメカが、照れてる?

 あのヒメカが―。

 嬉しかった。

 

 「なによ!。悪い!?。」

 

 ヒメカは両手を顔を隠した。

 

 「あたしもハルトが好き~。それだけじゃダメ?付き合うとかどうでもよくない!?。」

 

 ヒメカは、少しの恥じらいの混ざった小声で、叫んだ。

 

 「両想いだ。嬉しい。、」

 

 おれは、ヒメカに見蕩れていた。

 のろけだ。

 なんとなく両想いだとわかってたけど、直接好きだといわれると、確かに、照れる。

 ヒメカの気持ちがわかった気がした。

 

 「もうっ、やめてよ。恥ずかしい、ハルト。」

 

 ヒメカは、嬉しそうにおれの手を握り返した。

 

 「えへへえ。」

 

 「うふふ。」

 

 おれたちは互いの顔をみあって始終ニヤニヤし合った。

 傍からみれば、気持ちが悪かったと思う。

 お互い、童貞と処女なのだ。

 はじめて付き合うという体験をして、舞い上がっている。

 普通は小学生や中学生で体験することも、いい大人になって体験しているのだ。

 

 「ふふふ。」

 

 「あはははは。」

 

 何がおかしいのかわからない。

 何がおもしろいのかもわからない。

 ただ、二人でいられることが嬉しい、楽しい。

 

 「ヒメカ~、好きだ~。」

 

 「あたしもハルトが好き~。」

 

 お互いに好きを何度もいいあった。

 何が面白いのだろうか。

 わからない、けど、言い合った。

 お互いに顔を真っ赤にしながら言い合った。

 

 おれたちは学生か?

 そういってしまいそうなノリだった。

 でも、楽しい、嬉しい。

 

 こんな2人が巷では、神とされて、祀られ畏れられていると考えると、なんか笑えて来る。

 実態はこんなものなのだ。

 

 おれたちはデートに行った。

 

 はじめてのデート。

 

 お互いに全部ははじめてだった。

 

 バレないようにちょっと変装して、色々なところをまわった。

 

 何気ない会話が楽しい、嬉しい、心が躍る。

 

 水族館、映画館、カラオケ、遊園地、公園、駅前、ショッピングモール、カフェ―

 

 いろいろなところを2人で巡った。

 

 幸せだ。

 

 ヒメカとこうしてデートをすることが不思議で、夢をみているようだった。

 

 奇跡だ。

 

 これこそが神なのかもしれない。

 

 水族館で、魚をみてはしゃいだ。

 イルカのショーをみて、イルカの真似をした。

 ペンギンさんがかわいかった。

 

 一緒に映画をみて、ラブラブした。

 

 遊園地で、店を回って、お揃いのアクセラリーを買ってつけた。

 アトラクションに乗って、叫んだ。

 

 公園を歩いて回った。

 ベンチに2人で座って、のんびりと過ごした。

 

 ショッピングモールで、買い物をしたり、ゲームセンターで遊んだ。

 

 カフェで、美味しいごはんを食べた。

 

 ヒメカは楽しそうにしてくれた。

 おれも楽しかった。

 

 夢のように、綺麗で美しい、少し遅めな青春だった。

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