第12話:〝死竜の寝床〟第二層
死竜の寝床第二層――〝毒雨の迷宮〟。
そこはその名前に相応しい、まさにダンジョンらしいダンジョンだった。
狭めの通路で構成された迷宮で、部屋はたまにある小部屋しかない。暗くて見通しは悪く、敵はどこででもポップしてくるという仕様。
さらに厄介なのが――
「幸先悪いな」
早速目の前にある十字路の奥の通路の天井から、まるで雨のように黒い水が降り注いでいる。それは上の層の毒沼から沁みて出てきたものが降ってくるという設定で、触れるとただの毒だけではなく、各種状態異常のどれかをランダムで引き起こす。
さらにどこでどんな毒雨が降るかは完全にランダムなので、運悪く敵の団体と遭遇した時に睡眠や麻痺といった行動阻害の雨が降った場合は、それだけで死ぬ確率が跳ね上がってしまう。
「避けるしかない」
無理に突っ切っても、結果時間をロスするだけだ。ゆえに、第三層――つまりボスエリアへと続く階段へと辿り着けるかはかなり運に左右される。
「でも、俺なら大丈夫」
毒雨を防ぐ手立てはないが、この迷宮の構造は完璧に覚えている。
ゆえに毒雨やモンスターによって道を防がれても、迂回路へと進めばいいからだ。
まあ、それがどれだけ遠回りになるかは.……運次第ではあるが……。
「うっし、行くか」
俺は迷わず右の通路へと進む。
***
・右か
・まだwikiにMAP載ってねえの?
・二層に辿り付いた奴自体が少ないしな
・似たような景色で迷うわこれ……
・右手を壁に付けていけばいつか辿り付くぞ
・その前に死なないといいけどな
***
通路の先は丁字路になっているが、再び右に進み、その先をまっすぐ。途中にある各種罠はしっかり拾っていく。
罠を避けないでいい分、それだけ時間短縮が出来ていい感じだ。
ここまでは順調だった。
「まあ、そうは上手くいかないか」
通路を塞ぐように、デッドナイトの群れが俺を待ち構えていた。
相手は五体。まともに戦えば倒せないことはないが、ダメージは多少受けるだろうし、何より時間が掛かる。さらに戦闘中に毒雨が降ってきたら最悪だ。
「というわけで……早速使うか」
俺が早速手に入れたスキル――<騎士長の威光>を使うと、俺の背後に半透明の巨大な騎士が現れた。竜を模した鎧と兜、そして俺の手にあるハルバードと同じものを装備したその騎士は、よく見ればあの沼騎士と同じであることに気付ける。
この騎士こそが、竜殺しに特化した騎士団〝ドラゴンナイツ〟の騎士長であり、沼騎士はそのアンデッド版という設定だ。
そんな騎士長がハルバードの柄を垂直に地面へと叩き付けた。
同時に、俺の周囲に三体の騎士が現れた。騎士長と似たデザインの鎧を装備している彼らもまた、ドラゴンナイツの騎士であり、デッドナイトの生前の姿でもある。
淡く光る彼ら三人の騎士が、目前に迫るデッドナイトの群れへと駆け出すと、持っている剣と盾でデッドナイト達を蹴散らしていく。いつの間にか背後にいた騎士長は消えている。
これこそが、スキル<騎士長の威光>の効果だ。
騎士長の号令によってランダムで、一~五体のドラゴンナイトを召喚し、共に戦ってくれるというスキルだ。
それぞれにHPが設定されており、それが尽きるまでは自動で戦ってくれるので、上手く使えばかなりの戦力増強となる。
ソロプレイとなった俺には、ありがたいスキルだ。
ドラゴンナイトのレベルは出てくる種類にもよるが平均して40程度。戦力としては十分である。
そう言っているうちに、デッドナイトが一体を除き全滅。
その最後の一体が俺へと迫る。
まあNPCなので、撃ち漏らしはある。
「いや、よく考えると、現実でNPCってどういうことだよ」
なんてどうでもいいツッコミをしてしまうぐらいに、俺には余裕があった。
なぜなら。
「そこ、
俺の言葉と同時に、デッドナイトの立っている床から刃が飛び出す。それはいわゆる、床トラップの一種だ。
当然、俺が予めこの事態を予測して設置したものだ。
デッドナイトが、あっけなく刃に貫かれ、青い光となって消えた。
「よし、被害はゼロ。罠消費はあったが、すぐに取り戻せる」
三体のドラゴンナイトもほぼ無傷だ。
「この調子でいけるといいけど」
背後で毒雨が降る気配を感じて俺は走り出した。
足を止めている暇はない。
***
・ドラゴンナイトつえええ
・強スキルだな
・トラップマスターも強くね?
・これなら余裕そうだな
・いや、待て。まだあいつがいる
・<ブッダマン>はそいつのせいで攻略中断したんだっけ
・飼い主! 気を付けろ!
***
その書き込みを見て、俺は頷いた。
「情報サンキュ。ドラゴンね」
この階層でドラゴンといえば、あいつしか俺には心当たりがない。
だけども、あいつは――沼漁り同様に、特殊な条件でしか出ないはずだった。
一定数以上のデッドナイトを倒すというその条件に、俺は百五十体という数字を設定していた。その数は当然、普通に攻略する分には決して届かない数字であり、意図的なレベリングを行ったプレイヤーに対する制裁的な意味合いがあった。
だから、先行していた配信者がそいつに遭遇したという話からして、その条件が弄られている可能性が高い。
「助かるよ、みんな。そんなドラゴンが出ると分かれば対策もできる」
俺は視聴者に感謝しておく。一応、あいつが出てくる可能性は考えていたが、出てくることが確定であれば動きようもある。
だとすると……ここで遭遇するのはマズいな。
今俺がいるのは長い直線の通路の途中だ。この先にある三叉路の左側の道が階段へと続く道なのだが――問題はそこまでの間に一切他の通路がない点だ。
一応途中に小部屋があるのだが、そこまでは完全な直線。逃げ場は前か後ろしかない。
「こんなところで現れたら……厄介だ」
俺があえて階段の直前にこんな直線を用意したのも、そのドラゴンの為である。
そいつは条件を満たすと、必ずこの通路の奥に出現するようになっていた。
理由は――
「……っ! やっぱりか!」
通路の向こう側で、黒い影が蠢く。
それは体の半分が腐り落ち、翼も白骨化している、黒いドラゴンだった。
その名は、<デッドドラゴン>。まんまである。
レベルは60。真正面からまともに戦えば間違いなく負ける相手であり、そもそも――真正面には立たせてもらえない。
***
・で、でたー!
・もはや中ボスやん
・どうする飼い主!
・こいつ、基本的に動かないらしいから罠にも掛からないぞ!
・ドラゴンナイトならワンチャン!
・いやあ、アレされたら、終わりだろ
・逃げろ飼い主!
***
コメント欄を見ている暇はない。
なぜならデッドドラゴンが鈍重な動きで、その頭を俺へと向けてきたからだ。
肉が溶けて頭蓋骨が見えているその顔の、顎が大きく開いた。
その口内に見えるのは、黒い炎。
「やっぱりか!」
俺は躊躇う間もなく一気に前へと走り出した。
追従するドラゴンナイト三体もそれに続く。
同時にデッドドラゴンが口内に溜めた黒炎を、解き放った。
それは通路を埋め尽くす<
これこそが、鈍重でその場から動くことすらできないデッドドラゴンを、長い直線の奥に置いた理由だ。
デッドドラゴンによる必殺のスキル<ダークブレス>――それを回避不可能な場所で放つことで、プレイヤーを灼き尽くすという、最悪のトラップ。
「クソオオ! 誰だよこんなクソ鬼畜ダンジョン作ったの!」
走りながら俺は思わずそう叫んでしまう。
当然、その答えは分かっている。俺だよチクショウ!
通路の右側に、唯一とも言える避難場所である小部屋の入り口が見えた。
黒いブレスが――目前へと迫る。
俺のダンジョンがお騒がせしております ~俺の作ったダンジョンがなんか現実化しはじめたので、被害が出る前にダンジョンマスターの俺だけが知る稼ぎ知識で最速最強で攻略してたらなんか配信されててバズった~ 虎戸リア @kcmoon1125
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