第11話:視聴者へのお願い
ハルバードを振り回し、俺は最短で毒沼を突っ切っていく。
残念ながら、あの島以外に罠が仕掛けられている場所はない。なのでもはやこの階層に用はなかった。
第二層へと続く階段の手前にあるセーブポイントへと辿り付き、俺は早速拾った二つのジェムを鑑定する。
「お、これは……」
沼漁りが落としたジェムは――<スカベンジャー>。
ステータスは上がらないが、その代わりにモンスターを倒した際のドロップ判定が一回増えるという、マイニング用のジェムだ。
実質的には全てのドロップ品の確率が二倍になったと言えば、どれだけ凄いか分かるだろう。
「さらに……おお!」
沼騎士が落としたジェムは、まさに俺が今求めていたものだった。
その名も――<騎士長の威光>
「これはいいぞ!」
それは沼騎士からしかドロップしないレアジェムで、その効果もかなり特殊だった。
まずステータスについては上昇量は少ないが、全ステータスが上がる。
だけどもそれはオマケでしかない。このジェムで使えるようになるスキルが、とんでもなく有用なのだ。
「これなら、いけるかもしれない」
俺は希望が見えてきて、思わず笑みを浮かべてしまう。
***
・お、なんか良いジェムだったっぽいな
・問題はここからなんだよなあ
・第二層がしんどい
・頑張れ!
・陰キャニート君ファイト!
・流石に可哀想だし陰キャニートはやめたれ
・じゃあ……飼い主君か
・あの可愛いワンコたちを取り戻せ!
***
そこで俺はようやく――コメント欄について思い出していた。
「あ、そういや表示オフにしてたな」
表示をオンにすると――
「へ?」
俺はその書き込みの多さに驚く。
さらに同接人数が――既に千を超えていた。
「は? なんで?」
ミカも椿もいなくなって、陰キャニートなんて言われていた俺しかいないのに。
しかも、なぜか〝飼い主〟なんていうあだ名まで付いているし、やたら応援されてる。
その中に、こんな書き込みがあった。
・ダンジョンクリアして、俺の友達を救ってくれ!
どうやら……ダンジョンをクリアすれば行方不明者も帰ってくると思っている奴は俺以外にもいるようだった。
それが本当かどうか分からないけども――やるしかない。
だから俺はマイクをオンにして、こう視聴者達に伝えた。
「俺は絶対にこのダンジョンをクリアする。それでいなくなった人達が、ミカや椿が帰ってくるか分からないけど……やるしかない。だからもしこの先にある第二層やボスについて、何か情報があればコメントして欲しい。よろしくお願いします!」
俺はそのまま頭を下げた。
コードダンジョンが俺の知っているダンジョンから変質している以上、少しでも情報は欲しい。
もし俺がもっと慎重で……このダンジョンについての書き込みをもっと精査していれば.……あるいは沼騎士の出現を予測できていたかもしれなかった。
そういう後悔を、もうしたくなかった。
そんな俺の願いに――彼らは応えてくれた。
***
・任せろ
・ちょっと他の配信者のも見てくる
・一番進んでたのは、確か<ブッダマン>って配信者だろ
・俺、その配信録画してるわ。ちょっと見返してくる
・ボスについてはまだ情報ねえなあ
・死竜の寝床ってネーミングからして、アンデッド系ドラゴンじゃね?
・確かに
・飼い主頑張れ!
・ちょっとT〇itterで拡散してくる
・クリアするまで離れないぜ
・なんか燃えてきた
・二層は罠多めだから気を付けて!
・あと雨な
***
「みんなありがとう。よし、少し休憩してから二層に挑む。その間にとりあえず今の俺が持つジェムと装備を説明しておく」
そう言って俺はレベルとステータス、装備とジェムを視聴者に説明しはじめた。
「というわけで、武器はこの<竜殺しのハルバード>で問題ない。アンデッド系ドラゴンが出るかもしれないしね。さらにトラップマスターのおかげで、罠が多い二層は逆にやりやすいかもしれない。出てくるモンスターも、<騎士長の威光>があれば、なんとかなる」
俺はとりあえずこのダンジョンを作ったのが自分で、大体のことを把握していることは伏せておく。
当たり前だが、もし俺が作ったと分かれば手のひらを返される可能性があるからだ。
今は視聴者達を敵に回している状況ではなかった。
いずれ時がくれば……全て説明しようとは思う。
***
・すげえスキルだな
・騎士長の威光も強いな
・これならクリアできるんじゃね?
・いけるいける
・ちょっと防御面が不安だな
・レベルもさっきの連戦で上がったとはいえ、まだ40にもなってないしな
・飼い主君のスーパープレイに期待
・Twit〇erからきた。クリア期待!
***
俺が休憩している間にどんどん視聴者が増えていく。
これはこれで……緊張するな。
「うっし……行くか」
俺はもう一度脳内でシミュレーションを行う。
大丈夫。道順は完璧。モンスター対策もバッチリ。罠はむしろこっちにとってメリットでしかない。
あとは――未知にどう対応するかだけだ。
ただ、第一層の感じからみて、おそらくだが大きな変更はないはずだ。
既存の物を弄るぐらいしかコードマスターには出来ないのかもしれない。
「だとすれば……なんとかなる」
俺は気合いを入れ直すと――第二層へと続く階段を下りていったのだった。
待ち受けるのは、暗く複雑な迷宮と手強いモンスター達。そして――降りしきる毒雨。
死竜の寝床第二層――〝毒雨の迷宮〟の攻略が始まる。
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