追放聖女のレベル、本当は99だった
仲仁へび(旧:離久)
追放聖女のレベル、本当はレベル99だった
広い広場で集まった聖女たちが話をしている。
「あの聖女、実は偽物なんですって」
「親が貴族だから、コネで聖女になったらしいわよ」
それは、決してよいものではなかった。
聖女を育成する場所。
水晶パレス。
そこには、
たくさんの聖女達がいる。
だが一人、
いつまでたってもレベルが上がらない聖女がいた。
ある一定のレベルに達したら、そこから一つもレベルが上がらない聖女が。
そのため、聖女を育成するものたちは、その聖女を切り捨てる決断を下したのだった。
「レベル30から一つも上がらない聖女なんて、前代未聞だ」
「この育成施設の汚点になってしまう」
「周りのことを考えるなら、追放処分が下った時に言い訳せずさっさと出ていきなさい」
だから、
その聖女は偽物として追放されてしまった。
「せめて事務の仕事でもいいから、残って力になりたかったわ。人の役に立ちたくて聖女になったのに」
その聖女は、上司を説得しようとしたが、聞く耳をもってもらえず、荷物をまとめて施設から出ていくしかなかった。
その世界では、世界中に毒の魔力が噴出していた。
その魔力の影響を受けると、人や動物は凶暴化し、植物は枯れ果ててしまう。
だから、光の魔法を使うことができる聖女が、汚染された土地を浄化しなければならなかった。
「ああ、パレスに浄化の依頼を出しているのに、まだ聖女様は来ないのね」
「早く浄化しないと、汚染地域が広がってしまうのに」
「しかたないわよ。彼等は自分の利益になる土地にしか、救いの手をさしのべないんだもの」
しかし、聖女を派遣する聖女教会は、多額の献金をよこす土地しか、助けなかった。
そうなると、汚染された地域に住む者たちは、なくなく町や村を捨てるしかない。
けれど。
そういった地域の一つに、追放された聖女がやってきた。
「おーい、皆。もう大丈夫だぞ! 旅の聖女様が土地を浄化してくださった!」
その聖女は、少しばかりの食べ物と、数日の寝床と引き換えに、浄化を行っていた。
時間はかかったが、聖女はしっかりと浄化を終えた。
ふってわいたその救世主の存在に、人々は大いに喜んだ。
「なんて謙虚な聖女様なんだ! まるで初代聖女のセラ様みたいだ!」
「こうしちゃいられないわ。はやくそのお方にお礼を言いにいかないと」
施設を追放された聖女は、送り出してくれた家族に合わせる顔がなかった。
噂の通り貴族の家の娘だったが、コネで聖女になったわけではなく、才能を開花させた時、両親に背中を押されたから聖女になったのだった。
娘の華々しい活躍を信じて、パレスへ送り出した両親の心境を思ったため、その聖女は帰りたくても帰れなかった。
そのため聖女は、当てもなく各地を放浪しながら、浄化作業を行っていた。
その日も、小さな地域を浄化した後だった。
感謝の言葉を口にする人々に囲まれる聖女に、一人の男が近づいてきた。
「あんた、呪われているな。本来の力が見えなくなっているし、出せなくなっているぞ。レベルが低いままのように感じるだろ?」
そして、驚愕の事実を伝えてきた。
その聖女の本当のレベルは99だった。
なのに、ステータスはレベル30のもののまま。
それは、
呪いによって、本当のレベルが分からなくなっていたからだった。
それは、とある浄化の仕事で出会った、魔族の呪いによるもの。
聖女は、数か月前にとある仕事で危険な目ににあっていた。
かなり汚染が進行した土地に出向いて、凶暴な魔物などの脅威にさらされながら浄化を行ったことがあった。
そこには、汚染されて人間から魔族になってしまったものもいた。
護衛の人間はいたが、彼らの手でも守り切れないほど、状況は過酷だった。
だから聖女は、そこで魔族から攻撃され、背中に深い傷を負っていた。
その傷から呪いにかかって、本当の強さが分からなくなってしまったのだった。
「そうだったの。呪いをあやつる魔族なんて初耳だわ」
「むりもない、こちらの国の歴史の中では、今までに一人か二人現れた程度。かなり珍しいらしいからな」
魔族となった人間は稀に特別な力を発言させる事があったが、人に呪いをかけるものなど聞いたことがなかった。
「ここからは遠い、東方の、東の果ての島国ではそこそこ存在するんだが。その魔族になった人間は、どこからか旅してきた者だったのかもな」
謎が解けた聖女は、その男にお礼を言って、正体を尋ねた。
すると、その男は東の国の出身である、解呪士のエンドウだと名乗った。
エンドウは、故郷での聖女不足を解決するために、旅をしているのだという。
「東の国の聖女は、そちらでは巫女というんだ。だが数が少なくてね。そちらさんは、パレスの使いとかじゃないんだろ? おおかた呪い関係で追い払われたとかじゃないか? 行くあてはあるのか?」
「いいえ。これからどうしようか困ってて」
「それなら頼みがあるんだが」
エンドウの話を聞いた聖女は呪いが判明したお礼として、解呪士の故郷を浄化する事にした。
解呪士の力で本当の力を取り戻した聖女は、しかし途中途中にある村々や町々もしっかりと浄化していく。
「行く先々で人助けをすることになってるが、たまには飽きないのか?」
「困った人を助けるために聖女になったんだもの。飽きたりなんてしないわ」
それは長い旅で、多くの苦労がついてまわった。
だが、聖女にとっては不思議と、パレスにいた頃よりも充実したものだった。
やがてたどりついた解呪士の故郷は、土地がやせてて、実りのすくない土地だった。
治安も悪く、魔物や魔族も多い。
その東の国は一応、他の国にいる聖女達にも浄化を頼んだらしいが、いい返事はもらえなかったらしい。
だから、汚染された土地がすごく多かった。
「こんな大変な場所で、今まで人々が暮らしていただなんて。私たちは何も知らなかったのね」
「知らなかったのなら。これから知って、できることを少しずつしていけばいいさ」
聖女は、それから一生懸命に土地を浄化していった。
多くの経験を積んだ聖女は、みるみるレベルをあげて、最終的には999レベルになった。
それほどになると、神の奇跡とも呼べるような行為すらできるようになり、死んだばかりの人間を甦らせたり、土地の実りを増やしたり、天候を操る事もできるようになった。
やがて、多くの人たちに認められるようになったその聖女は、初代聖女と同じ名前で、聖女セラと呼ばれるようになった。
行くあてに困っていたその聖女は、聖女セラとしてその土地で暮らすことになり、追放された時とは違って、多くの者たちから慕われる事になった。
追放聖女のレベル、本当は99だった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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