付いて来てる・・・?

「あぁ見えてきた。あれだあれだ。あの石だ。」


 キャスカは池へ分け入る道標である大岩を自らの背丈よりも大きく茂った草木の中から見つけ出し、小柄な体を揺らしながらそこへ駆け寄って行く。


 少し暑くなり始めた空の元、勢い良く伸びた茂みはそれを押し退けようとするキャスカの腕から容易く逃げ出し、また真っすぐ天を目指す。


 私はキャスカを追って立ち直りつつある手ごわい茂みを再度押し退けて分け入ると、草木がどうやって隠したのか解らない程の巨岩が突然目の前に現れる。


「キャスカ、これ?目印の岩って。」


「そうだよ。見てよこの巨大なチャートの塊。ほらここ。」


 キャスカはこの巨岩の表面に存在する物を私に見せたいのか、懸命に指を差してアピールする。


「どれ?ああ、これって・・・。」


「どう?デカいだろ?三葉虫の化石だよこれ。」


 キャスカが指し示した巨岩の表面にへばりつくように存在する三葉虫の化石、それはキャスカの顔どころか上半身程の大きさの物だった。


「こんなにデカい三葉虫の化石、初めて見たわね。」


「私もだよ。こんなにデカい三葉虫は恐らくこの国中探しても数えるほどしかない。相当珍しいよ。」


「そうねえ。大発見ね。ただこれを発表してしまうと・・・。」


「うむ。確実に森に探検隊が多く立ち入る様になって、この森の生態や環境に確実に悪影響を及ぼすな。」


「難しい問題ねえ・・・。持ちかえるわけにもいかないし。」


 この三葉虫の化石、先程述べた通りキャスカの上半身程の大きさがある為、私達が持ちかえろうと試そうものならその重さに耐えかねてその場で動けなくなってしまう。


 例え新月香を焚いて居ようと身動きできない力の無い私たちは、この森に住まう無慈悲なハンター達の丁度良い獲物になる。


「おーい。ここか、ここに居たか。いや困った。」


 少し遅れて茂みからオオオナモミのひっつき虫を体中に王妃のドレスの宝石のように散りばめたミディが這い出てくる。


 それを見た私は思わず吹き出し、「ちょっと、大変なことになってるわよ」とミディの服を笑顔で指し示すもののミディの顔は厳しいまま口角すら上がらない。


「ミディ、どうしたのよ。そんな真剣な顔して。」


「魔法具でモンスターの気配を探っていたんだ。森に入ってからずっと。それで・・・。」


「それで?どうしたのよ?」


「小さい反応ではあったんだが、私達の後ろをずっと一定の距離を保ったまま付いて来てるっぽいんだ。」


「つけられてるって事?」


「ううむ。恐らく。まあでもこの反応から見てそこまで大きいやつでは無いとは思うんだが・・・。」


「どうする?遠回りしてモンスターを蒔けるようにキャスカに言ってみる?」


「んまあ、それも手だなあ・・・。」


 私とミディが後を付けて来ているであろうモンスターへの対処について協議していると、その瞬間太陽の光が水の中に居るようにキラキラと揺らめき始める。


 上空に何かが居る、そう判断し上を向くと透明な水のベールが天井に張り巡らされる。

 スライムの捕食体勢だ。


 体を大きく伸ばし、一気呵成に上空からのしかかりそのまま捕食する。


 私とミディはその真下に居た。

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薬屋さんの3人娘! 斧田 紘尚 @hiroyoki_naoyoki

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