スライムかあ・・・。
「おーいミディ、大丈夫か?」
キャスカは私達二人よりも少し遅れて歩くミディの事を心配して声を掛ける。
「ちょ、ちょっと待って・・・。」
ミディは私達よりも荷物自体は少ないように見えるが、全身に取り付けられた数多もの魔法補助用具がミディの行動を多少、というよりはガチャガチャとかなり行動を妨げているように見える。
「ねえミディ、そんなに魔法用具っているの?」
私はそんなにも重装備にする必要があるのかと気になってミディに問いかけるものの、ミディは然も当たり前のように「当然だろ?」と返してくる。
「エンデリンの森ってそれほど危険なところじゃないでしょ?なのに魔法拡大収束レンズ、マナ収束補助具、マナ精錬具、戦争するわけじゃないのにそんな必要?」
「いるいる。キャスカ、最近小レルム川の水がいつもより綺麗になったと思わないか?」
「んー、そういえば前に見に行った時、魚の姿がよく見えるなとは思った。」
「だろ?それが問題なんだ。」
ミディは頭を抱えるような仕草をしつつ、気が重そうな様子で私たちの後ろを歩く。
私はいまいちミディの言っている事が理解できず、振り返って子細を問いただそうとする。
「なんで?水が綺麗になってるって事は良い事じゃないの?」
「よく考えてみ?水が綺麗になったって事は、綺麗になった分の、いわば汚染されていた物質、これが何処かに行ったって事だろ?」
「んまあ、そう言われれば、そうね・・・。」
「でだ、その汚染物質、それがモンスターの栄養分となっているとしたらどうだ?」
「・・・つまりはその汚染物質によってモンスターが繁茂している可能性があるって事?」
「いやまあ可能性、ってだけではあるけど。思い当たるモンスターが一種あるんだ。」
「スライムだろ?ミディ。」
キャスカが割って入る。
「そう、スライムだ。」
スライム、厄介なモンスターだ。
爬虫類種や鳥類種の様に低いとはいえある程度の知能を持って活動しているモンスターであるならば、自らの生命を長引かせる為の、いわば種の保存の本能を持っている為に、ある程度のダメージを受けたり恐怖を感じれば逃走させる事が出来る。
魔法は使えど力の無い私達でもある程度の対処が可能ではある。
だが、植物やこのスライムなどのモンスターは他のモンスターとは違う。
あるかどうかも分からない神経伝達と電気信号によって近寄る物、何もかもを襲う。
そして考える事の無いモンスターは、自らが傷付いても怯む事無く、唯々電気信号の赴くままに何もかもを取り込んで消化し、分裂増殖していく。
無論、スライムにも天敵は居る。ナメクジやカタツムリ型のモンスターはスライムに取り付いてその水分を吸いつくしスライム自体の活動を停止させる。
「スライム、かあ・・・。火も電撃も効かないわね・・・。」
スライムは体内の水分を使って高熱の炎を遮ったり、電撃を地面に逃したりと有効手段が限られる。
氷魔法ですら表面を冷凍させるだけに留まり、水魔法は単なる栄養を与えるだけになる。
変幻自在で物理や切断も意味をなさない。
特にスライム相手にやってはいけない禁じ手がある。
森の入り口でキャスカが放った熱光線の魔法だ。スライムの体内で乱反射して森全体が焼け野原になってしまう。
「しかもだ。あいつらには鼻が無い。新月香も効かないと来た。」
「ああ・・・。」
「兎にも角にも、周囲の警戒を怠らないようにしないとな。」
「そうねえ・・・。」
ミディが何故気が重いのか、私は
だって、私達がこれから行こうとしている所って、水場じゃないの。
「だがまあ手はある。安心しておけ。」
キャスカが私とミディの心配そうな顔を見て、いかにも手立てがありそうな自信たっぷりな顔をする。
キャスカがこういう顔をする時は、本当に対策が出来ている時。
私達はこのキャスカの顔に何度も何度も助けられてきた。
キャスカは爬虫類種のモンスターに対して毒性のあるにんにくやネギを用意していた時もあった。
あの時は本当に命拾いした。危うく三人そろって死ぬところだった。
きっと今日もキャスカが何とかしてくれるのだろう、私はそう思いひとまず心を落ち着ける事にした。
ただし、この話をしている私達のすぐ後ろをぴたぴたと、巨大なスライムが着いて来ていたという異常事態に目を瞑れば。
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