第11話 珍客 - ②

 元服した幸王丸こと関東かんとう公方くぼう足利もちうじのもとに、統治外であるしなののくにから訪れたおおさぶろうという男が、味方になることを条件に通行手形の発行を求めてきた──



「なるほど。つまり、通行手形を発行するかわりに、ゆうの際にさぶろうは私の味方になるということだな?」


 さぶろうの要望を理解する足利もちうじ



「はい」

 大井さぶろうおくすることなく返事をする。



のりさだはこの件についてどう思う?」



 二人の話しをじっと聞いていたかんとうかんれい山内やまのうち上杉のりさだが口を開く。


「はい。理由はわかりましたが、通行手形を発行するには、いささかと釣り合わないかと存じます」


 すると、大井さぶろうはすかさず応える。


「いや、こちらもそれだけとは申しませぬ。関東に所領がてんざいしておりますゆえ、地の利を生かしてもちうじ様には定期的に関東各地の情報をちくいち報告させていただきたいと存じまする」



「ほう。各地の情報でございますか」

 上杉のりさだの表情が少しやわらぐ。


 そんなのりさだの表情を見て足利もちうじは不思議に思う。せきせんの方が大事なんじゃないかと──


のりさだとはそんなに価値のあるものなのか?」


 若いもちうじは、いまいちに落ちていない。



「ええ、我々かまくらは様々な案件に対して、常に最善の判断をくだしていかなければなりませぬ。その判断材料として関東各地の情報を把握しているのといないのとでは、さばきによる結果にうんでいの差が出てきます。我々にとってはある意味ぜによりも価値があるものかと存じまする」



 足利もちうじと上杉のりさだのやり取りを黙って聞いている大井さぶろうは、


(ほう。情報の価値を理解しておるのか。さすがは関東管領なだけあるな)


と、上杉のりさだにも感心している。



「そうか。まあのりさだがそこまで言うのだから間違いではなさそうだ。では、こちらが通行手形を発行するとして、もし定期的に情報を報告してこなかった場合はかがする?」


 足利もちうじは子供ながらも威圧的に大井さぶろうに問う。



「わっははははは! もちうじ様はなかなかご慎重な性格でございまするな。それがし自ら損失を伴いかねない条件を提示しておりますのに、約束をにするはずなどございましょうか。万が一そうなった場合は、関東各地にてんざいしている我が領土とぐんに攻め込んでいただいて結構でございまする」



 三人しかいない室内にめた緊張感が漂い、沈黙が流れる──




 ほどなくして足利もちうじが口を開く。


あいわかった。大井さぶろうの言い分及び覚悟、しかとうけたまわった。通行手形を発行しよう。それで良いな、のりさだ


「ええ、もちうじ様の意のままに」



「ありがとうございまする」

 大井さぶろうは深々と平伏する。



 こうして、かまくらにとって関東各地の情報を得るを手に入れることとなる。


 今後、大井さぶろうから供給される情報が大いに役立つことは言うまでもない。



「では、早速で申し訳ないが調べてもらいたいことがあるのだけれど、よろしいか?」


「はい、何なりと」


 足利もちうじは大井さぶろうを近くに呼んで、何やら耳打ちするのであった──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る