第12話 名を欲しがる者 - ①

 第4代関東公方足利もちうじが元服してからというもの、関東各地から御祝いの来客は後を絶たない──


 だが中には御祝いと称しておおさぶろうのように別の思惑を秘めて来訪する者がいる。




 そんなある日──



もちうじ様。本日はへんの拝領を希望する者が見えておりまする」


 関東管領やまのうち上杉のりさだが持氏に報告する。



へんを? そうか、それならば会わない訳にはいかないな。のりさだ、その人を呼んでくれる?」


かしこまりました」


 ちなみにへんとは、将軍や主君が功績のあった臣や元服する者に自分の名の一字を与えることだが、自ら偏諱を希望することは少なくとも証でもある為、かまくらの味方を少しでも増やしたい足利もちうじとしては、に出来ない案件なのである。



 すると、もちうじとさほど年の変わらない若い男が姿を見せる。


「し、失礼仕りまする。しもつけのくに第13代当主つのみや常陸ひたちのすけでございまする。もちうじ様、この度は元服されましたこと、ま、誠におめでとうございます」



 ──うん? 緊張しやすい性格なのか?と内心思いながらも、もちうじは返答する。


「うむ。殊勝である。して、今日はへんを希望されていると聞いておるが?」



「は、はい。私、今年16歳になりましたが、先代からの慣例に従い、か、関東公方様からいみなを拝領したく参上した次第でございまする」



 常陸ひたちのすけが用件を述べると、やまのうち上杉のりさだが持氏に説明する。


「持氏様。常陸ひたちのすけ殿の父である第12代当主宇都宮みつつな殿は、元服の際、持氏様の祖父である2代目関東公方足利うじみつ公よりへんを受けておりまする」



「おおっ、そうであった。それに宇都宮家といえば、以前からかまくらを支えてくれるめいでもあるから、断る理由などない。喜んで授けよう」



「あ、ありがたき幸せ」


 常陸ひたちのすけ辿たどたどしく平伏する。



「ところでつのみや常陸ひたちのすけよ……」


 足利持氏が常陸介を見据える。



「は、はい」


なたはうまくやっておるのか?」



「えっ……?!」


 常陸ひたちのすけは思いがけないことを持氏に問われて、ろうばいを隠せずにいた。

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