第4話 上杉氏のそれぞれ ③

 年が明けて1410年。


 さて、関東管領かんとうかんれいである山内やまのうち上杉家だが、現当主・山内やまのうち上杉うえすぎ憲定のりさだには二人の息子がいる。



「父上。弟の義憲よしのりは大丈夫でしょうか」


 長男の憲基のりもとが弟を憂いている。ちなみに19歳。



「う〜む。今や佐竹家の当主とはいえ、まだよわい10歳の子供だからな。当主になって早三年経つが、未だに家督相続は円滑に進んでいないようだ」


 父親である憲定のりさだも次男の安否を気遣っている。



「やはり山入やまいり佐竹氏が横槍を入れているのが、障害になっているのですか?」


「うむ。佐竹家は本来、清和せいわ源氏げんじの流れをんでおり、我が上杉氏は藤原ふじわらの流れだ。それは分かっておるな?」


「はい」


山入やまいり佐竹氏が佐竹家の本家ほんけでないとはいえ、藤原氏の流れを汲む我が上杉氏が佐竹の本家ほんけを継ぐことに対して快く思っていないのであろう」


 息子に説明する上杉うえすぎ憲定のりさだの表情は曇っている。



 すると、に落ちない憲基のりもとは更に父に問う。


「何故、前関東公方足利あしかが満兼みつかね様はそんな家柄に弟の義憲よしのりを婿入れさせたのでしょうか?」



「うむ。これはあくまで私の推測だが、満兼様は同胞どうほうすなわ関東かんとう公方くぼうである自分に従う味方を少しでも増やしたかったのではないかと考えておる」



「佐竹家に婿入れさせることで、今のような軋轢あつれきを生むことになってもですか?」



「うむ。佐竹家は常陸ひたち守護であるわけだから、本来なら常陸国ひたちのくにをしっかり統治しなければならない立場なのだ。しかし、勢力基盤は脆弱ぜいじゃくなため、どうしても後ろ盾が必要でもある。まあ、味方を少しでも増やしたい関東かんとう公方くぼうと、後ろ盾が欲しい佐竹家にとって、この度は共に利害が一致したわけだが、足利あしかが満兼みつかね様にしてみれば、博打だったとも言えるであろう」



「そんな……、成功するか分からない博打に弟の義憲よしのりは利用されたというのですか?」


「それだけ鎌倉府かまくらふの統治体制がまだまだ整っていないということだ。先代満兼みつかね様もさぞ苦渋の決断だったに違いない」


「父上。果たして関東に平穏な日々は訪れるのでしょうか……」


「それは、鎌倉府かまくらふを担う我々の働き次第だ。だから、今を憂いている暇はないぞ」


「はい。父上のような立派な関東管領かんとうかんれいになれるよう精進いたします」



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