第3話 上杉氏のそれぞれ ②

 いぬがけ上杉家が何やらおんな動きを見せつつある一方で、今後の行く末をねんしている上杉一族がいる──


 鎌倉のおうぎがやつという土地に根付くおうぎがやつ上杉家第4代当主うえすぎうじさだである。この時36歳。


 いみなの「氏」はこうおうまるの祖父である2代目関東公方あしかがうじみつよりたまわったものとされており、永くかんとうぼうを支えるちゅうしんとして仕えている。


 そして、おうぎがやつ上杉家のさいを務めているのはおおすけふさである。


 ちなみに "さい" とは、あるじに代わって家政を取り仕切るしょくせきのことであり、平たく言うとその家においてNo.2の立場にいる者のことである。




「──そうか、3代目かんとうぼう足利みつかね様がお亡くなりになられたか……」


 上杉うじさだは報告してきたさいの太田すけふさに応える。



「はい。ちなみに4代目関東公方はちゃくなんこうおうまる様でございまする」


 ちんうつおもちを浮かべる上杉うじさだに対して、すけふさは自分が仕入れてきた情報をたんたんと報告する。



「そうか……、ところでこうおうまる様はおいくつになられたんだ?」


「12歳でございます」


 すけふさが即答する。



「!」 

 すると、上杉うじさだまゆひそめる。


「う〜む。──これはひとらん起こるかもしれぬな」



「私も同感です」


 太田すけふさしているらしく、うじさだの言葉に同意する。



だねになりそうなのは、やはりいぬがけあたりか?」



 うじさだの問い掛けにすけふさおもおもしく応える。


「恐らく。実際、最近になってからいぬがけ上杉家の者らを鎌倉でひんぱんに見かけまする」



「ふうーっ……」


 うじさだは天井をあおぐようにして大きな溜め息を漏らす。



 そして、口を開く。


「全くあのあらくれ坊主は……。上杉同士で勢力争いなどしている場合ではないというのに……」



 眉をしかめているうじさだを見ながら、目の前の当主のうれいをつ訳でもなくすけふさは応える。


「今ややまのうちよりも影響力がありますからな。大方、うえすぎぜんしゅう殿は、かんとうぼうが代替わりする不安定なに狙いを定めて、確固たる勢力基盤を築きたいのでしょう」



 うじさだはもう一度大きな溜め息をついてすけふさに告げる。


「わかった。引き続きいぬがけの動向を注視してくれ。頼んだぞ、すけふさ!」



「はい。かしこまりました」



 こうして、3代目関東公方あしかがみつかねが死去したことにより、今までどうにかきんこうを保っていた上杉一族にほころびが生じ始め、次第に『やまのうちおうぎがやつ VS いぬがけ』という勢力構図になっていくのである──

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