第2話 上杉氏のそれぞれ ①

 さて、ここでかんとうかんれいについて少し触れる。


 当時は、上杉一族のうち、やまのうち上杉家といぬがけ上杉家が交互に関東管領を務めていた。


 そして、こうおうまるの父である3代目関東公方あしかがみつかねの死去に伴い、いぬがけ上杉家の当主となったのが、うえすぎうじのりである。


 上杉一族は関東地方において、いくつかの家に分かれているが、この物語ではやまのうちいぬがけ、そしておうぎがやつの三家を主に取り扱うものとする。


 ちなみに、名前はその一族が鎌倉の山内・犬懸・扇谷と呼ばれる土地にそれぞれ居館を構えたところから由来する。


 そんな上杉一族は、やまのうちいぬがけの二家が主体となり、関東地方に影響力をもたらしていたのだが、最近になって本家であるやまのうちよりも勢力をつけてきている分家・いぬがけの方が、今や "上杉氏のそうりょう" ともくされるまでになっている。


 つまり、関東地方においてNo.2のかんとうかんれいの家柄であるやまのうち上杉家よりも、いぬがけ上杉家の方が影響力を持ってしまっていることで、かまくらとしては非常にやりにくい立場に置かれているのである。




 ──さて、いぬがけ上杉うじのりは鎌倉の居館にて思索にふけっている。年齢は40代半ばである。


(関東公方はみつかね様が亡くなり、ちゃくなんこうおうまる様が跡を継いだか。そして補佐するのは、やまのうち上杉のりさだ……。さて、これからかまくらは安定するか、それともかいしていくのか……、のりさだのお手並み拝見といくかのう──)


 上杉うじのりは不敵な笑みを浮かべている。



 すると、ふすまの外から一人の男の声が聞こえる。


ぜんしゅう様。失礼します」


 "ぜんしゅう" とはうじのりの出家名である。



「おお、婿むこ殿か。入るがよい」


「はっ」


 入ってきたのはいわまつみつずみといい、氏憲の娘婿であり、上野国こうずけのくに新田荘にったのしょう、現在の群馬県おおを領するこくじんである。



「何やらご機嫌が良さそうですな」


 そう口にしながらみつずみは上杉うじのりの正面にスッと座る。



「ふふふ、お主にはそう見えるか?」



「はい。まるで前関東公方あしかがみつかね様がお亡くなりになったことを喜んでいるようにさえ思えます」


 みつずみが皮肉めいた言葉を投げかけると、うじのりは目を少しばかり大きく開けて、しばらくしたのちに含み笑いを見せる。


「ククク、意地が悪いことを言うのう婿むこ殿は」



 その応えに対しみつずみぐに問う。


「否定はなさらないので?」




 いくばくかの沈黙ののちうじのりが口を開く。


「──まあ、あながち間違いではないからのう。それよりも根回しは上手くいっておるのか?」



 みつずみが応える。

「はい。鎌倉を中心としてかんじゃを放っております。効果が出るのは恐らく夏頃になるかと……」



 するとうじのりわずかにとした表情を浮かべる。


「そうか、来年が楽しみじゃのう」



 二人しかいない一室には明らかにおんな空気が満ち溢れていた──

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