混迷の東国 〜関東戦乱史〜 【第2章 突入! 】【3500PV突破! 皆さまに誠に誠に感謝!!】

保丸

第1章 〜動乱前夜〜

第1話 新たなる旅立ち

 時は1409年。


 関東の鎌倉御所かまくらごしょにて関東公方かんとうくぼうである足利満兼あしかがみつかねが死去した。享年32歳。


「父さんが死んだ……」


「お気を確かに、幸王丸こうおうまる様」

 そう言って関東管領かんとうかんれい山内やまのうち上杉憲定うえすぎのりさだは、幸王丸という名の少年をいたわる。

 憲定この時34歳。


「そうだ。憲定殿がおっしゃる通り、くよくよしている暇はないぞ」

 そう言う男は、足利満隆あしかがみつたか。幸王丸の父親である足利満兼あしかがみつかねの11歳下の弟であり、この時20歳の青年である。


満隆みつたかおじさん……」


「おじさんじゃない。満隆と呼ばんかい」


 幸王丸からしてみれば、亡き父の弟であり、立派な叔父にあたるのだが、満隆は自分がまだ若いせいか「おじさん」呼ばわりされるのを嫌がっている。



──関東公方かんとうくぼう。それは、京都の室町むろまちにある中央政権足利幕府あしかがばくふが、遠方により統治出来ない故に関東地方における "将軍の代理人" として設けた新たな統治機関。

 

 その関東公方の補佐、及び政務執行機関として設けられたのが関東管領かんとうかんれいであり、平たく言うと関東地方におけるNo.2の機関である。


 そして、関東公方かんとうくぼうを 「におけるトップ」、関東管領かんとうかんれいをそのNo.2として、鎌倉に設置された地方行政機関を『鎌倉府かまくらふ』と呼ぶ──



「幸王丸様、よく聞いて下され。父の満兼みつかね様がお亡くなりになられた今、これからは嫡男ちゃくなんである幸王丸様が関東公方かんとうくぼうになられるのです。だが、ご心配には及びませぬ。これからも私が幸王丸様を盛り立てていきますゆえ、立派な関東公方になられませ」

 関東管領山内やまのうち上杉憲定のりさだが言うと、


「そうだ、幸王丸だけでどうにかしようとするな。憲定殿もいればこの儂もおる! 皆で一丸となって関東地方に安寧あんねいをもたらそうぞ!」

 足利満隆みつたかも続けて言う。



「わかったよ……、俺一人じゃ到底無理だから、二人とも、これからも宜しくお願いします」

 少年は大粒の涙を流しながら、二人の男たちに深々と頭を下げる。


 幸王丸こうおうまるはこの時12歳。父である足利満兼あしかがみつかねの跡を継ぎ、4代目関東公方かんとうくぼうとして、険しい道を今、歩き出す。



──これは、俗に戦国時代と呼ばれる一つ前にあたる、まだ京都の足利幕府が中央政権として機能していた室町時代の物語である。


 舞台は主に関東地方であり、関東公方かんとうくぼう及び関東管領かんとうかんれいを中心にして、自家じかの生き残りをかけて翻弄される国人こくじんたちなど、出来うる限り様々な人物を浮き彫りにしつつ、次第に戦乱が頻発して混沌としていく様を描く長編歴史群像劇である──




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る