第5話 義憲の憂鬱

 さて、二人の話題にあがったかんとうかんれいやまのうち上杉のりさだの次男であるよしのりであるが、常陸ひたちのくに太田城を居城としており、現在のいばらけん常陸ひたちおおに位置する。


 第12代佐竹家当主たけよしのりは、まだ10歳の少年であり、佐竹一族であるやまいり佐竹氏らの政治的介入により、勢力として "一枚岩" とは言い難い状況に苦心している。


 だが、味方がいない訳ではない。


よしのり様。何を考えておられるのですか?」


 声を掛けてきたのは、やまがたもりとしであり、義憲の守役である。



「ああ、もりとしか。いや、今日のひょうじょうについてちょっとね……」


 ひょうじょうとは、今の会社でいういわゆる「会議」のこと。



やまいり佐竹ともよしらの欠席についてですな。はっはっは、それにしても今日は欠席者が多かったですなあ」


「笑い事じゃないでしょ。今までは渋々ながらも出席してたっていうのに……」



「3代目関東公方あしかがみつかね様がお亡くなりになった途端に欠席とは……、いやあ露骨な行動過ぎる余り、怒りを通り越して笑えてきますなあ」


 守役のもりとしは至って楽観的である。



「はあっ……。もりとしはどうしてそんなに明るくいられるのさ。嫌われてるんだよ、ともよしたちに!」


「そんなのは知っておりまする。しかし、こうなることは婿入れする時から予想していたことですからな。まあ、今はじっと耐え忍ぶほかないですな」



「軽く言うよなぁ。もう佐竹家に来て3年だよ。いつになったら俺を受け入れてくれるのさ」



やまいり佐竹ともよしら昔からいるだいの者にしてみれば、義憲様はものですからな。反感を買うのも致し方なし。まあ、そういう意味では私もなんですけど」



もりとし……」


 そう、守役のやまがたもりとしは今でこそ山方姓を名乗っているが、父親はうえすぎのりとしといい、関東管領やまのうち上杉のりさだの父親の弟であり、佐竹よしのりとは従兄弟の間柄なのである。


 つまり、やまいり佐竹ともよしら譜代の者にしてみれば、一度に2人のものが入り込んできて、自分達より上の立場に収まっているのであるから、面白く思わないのも無理は無いのである。


「よろしいですか。よしのり様は決して独りっきりではありませぬ。どんな困難があろうとも我々力を合わせて乗り越えていきましょうぞ」



「……そうだな、もりとしの言う通りだ! 俺は独りじゃないんだ!」


「その意気ですぞ、よしのり様!」





(それにしても、久しく会ってないけどこうおうまる様は元気でやってるかなぁ)


 佐竹よしのりは昔、幸王丸と一緒に遊んだことを思い出していた。

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