7
一人の少女が朝日に目を眇めて起きた。
掃除の施された広い部屋のベッドの上で最高級のパジャマに身を包んだ彼女は、バルコニーに出るとぐぐっと伸びをする。
入ってきた使用人に身支度をお願いし、今はもう着慣れたドレスに着替える。
彼女の身につけているドレスは少々動きやすさを重視したものだった。
護衛を引き連れ、食事の席につく。
「おはよう、ルナ」
「おはようございます、伯父様」
出された朝食を食べると、伯父と呼ばれた男がそうだと言って彼女に話しかけた。
「今日は午前中に制服の仮縫いをしに業者が来るけれど、予定は空いているかい?」
「はい、問題ありません」
「今日も訓練はするのかい?」
「午後からの予定です」
彼女は食べ終えると、「勉強があるので失礼します」と言って席を立つ。
「おやおや、もう終わりかい? 食事ぐらいゆっくりしていけばいいのに」
「伯父様こそ仕事が山積みなのでしょう? 早めに終わらせなければ自由な時間すら取れませんよ。ただでさえ伯父様は大領主なのですから、治める管轄範囲は馬鹿にならないと思います」
「ははは、それもそうか。じゃあ、また夕食で」
「はい、失礼します」
ペコッと頭を下げて彼女が出ていくと、男性はため息をついた。
「………やれやれ、五年経ってもまだだめ、か」
――――――――――
「あーもうムカつくっ」
「ルナ、落ち着いて。今日はあの人は領地の視察で家を留守にするから」
「……おばさんはどうなの? ナオに会えないかもしれないんだよ」
「ナオは強いから大丈夫。だって私達の子だもの」
「…………そうね」
ルナは言葉にならない感情を飲み込んで、それからふと思いつき。
「そうだ、村に行くのはどう? ギルドの転移陣を使えば村までとは行かないけれど近くに飛んでいけるはずよ」
「だめ。あの人に禁止されているから」
「…………けちんぼ」
さっぱりと提案を断られたルナはぷくっと頬を膨らませて、勉強机に向かう。
「受験勉強は終わったんじゃないの?」
「うん。もう合格してるししなくてもいいんだけどさ、伯父様が入学後も見くびられないようにってことで」
今開いているのは進学予定のローベルト魔法学園の授業の予習だ。周りに負けないためには努力し続けなければならない。
魔法に特化したその学校は、王族や上級貴族も入学している。公爵令嬢のルナも入るのが妥当だった。
「全寮制だけど、ついてくる護衛はおばさんにお願いできる?」
「ええ、もちろん」
護衛のダリアの言葉で、これでならどうにかやっていけるとルナはほっと息をつき。
勉強の続きを始めた。
――――――――――
「お嬢様、こちらが制服でございます。未だ仮縫いの時点なので本日で詳細を決めさせていただきます」
「ええ。お願い」
指定の裁縫店所属の針子が五人ほど訪れ、三人が着付けていく。
ローベルト魔法学園の女子の制服は淡い青を基調としたブレザーに、濃紺の
着付ければすらりとした彼女の体に遊びを持たせていて、将来を見越しているのが分かる。
「――――以上で終わりになります」
「ありがとう」
半ば完成した状態だったため数時間で終わった。ベルトや靴下、ローファーや鞄なども決めた。ローブに入れる刺繍のデザインの詳細も打ち合わせて、彼女は立派な公爵令嬢となるべく指示を出した。
昼食は使用人が準備してくれた軽食で済ませ、午後はダリアやこの家の騎士と訓練をする。
日課になっているこの訓練も、気づけば五年以上が経ち、十四歳でデビュタントを果たしたルナは十五歳になっていた。
あと数ヶ月で学校に入学するのだが、この時期はその準備で忙しい。
ルナが剣に割く時間を持っているのは、公爵邸の財力と行動の速さが原因だった。
合格したと知るや、真っ先に指定裁縫店を予約し、作るようにした。
「あぁ、昔に戻りたい」
ため息をついて、変わらない日常を繰り返しながら、彼女は学園に入ってそれが変化することを切に願った。
――――――――――
入学式当日。彼女は家の前で見送りしてくれる人々の歓声と、伯父の期待の籠もった眼差しを一身に受けて、学園へと発った。
―――――――――――――――――
こんにちは、ニッコウキスゲです。
これにて幕間 ラテル放浪編は完結となります。
これからも頑張っていきますので、どうか第二章までお付き合いくださいませ。
世界最強の1から始めるアナザーワールド攻略法 ニッコウキスゲ @Nikkoukisuge3713
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