第179話 強敵

 熊のみたいにデカい化け物は首をもがれて動かなくなった。

先程まで、私たちの事を弾丸の嵐で襲っていた化け物戦車は、死の土スートゥ様の能力によって首を捻じり取られ、ボトボトと血を流している。ようやく血が止まった後、私は死の土スートゥ様に恐る恐る質問した。

「あ、あの、殺してしまったのですか?」

今回の任務は世界の意志に選ばれた可能性のあるトガショウの生け捕りだ。今目の前に入っている光景は生け捕りとは程遠い光景だ。捕獲クエストだと失敗扱いになっている。私の問いに対して死の土スートゥ様は優しく落ち着いた口調で、答えてくれた。

「これで終わったんなら世界の意志じゃなかったって事だ。それにコイツの能力は報告によれば驚異的な再生能力って聞いている。喰ったゼノの特徴を取り込んで、その一部を再現できると聞いたが、まさかここまで強いとは思わなかった。悪いな、お前たちを危険な目に遭わせてしまったし、お前たちが居てくれなかったら俺様はやられていた。ありがとう……」

「い、いえいえ……当然の事をしただけです!」

ゲンドウさんは褒められて嬉しそうだ。いい歳のおっさんが年下の男に褒められて喜んでいる光景は中々キツイ。


 ぐちゅぐちゅ……


 動かなくなったハズの化け物戦車から不気味な音と共に、首から血液が沸騰し始めた。熱くなって沸騰している訳ではなさそうだ。


 これは再生し始めている……


徐々に折れた骨が伸びていき、その骨を包み込むように周りに肉が付き始める。あまりにもおぞましい光景、ホラー映画に出てきそうなクリーチャーみたいで気味が悪かった。


「ひええ、もう再生している?!」

「ゲンドウさん! 今すぐに能力を! ワープゲートを出してください!」

怯えるゲンドウさんに死の土スートゥ様が、ここから脱出するためのワープゲートを出すように指示をだした。思っていたよりも早い再生力に、これには死の土スートゥ様も驚いて、慌てた様子を隠せなかった。

「ミミ、樹神教に連絡を!」

「は、はい!」

「いいか! 今からトガショウをこのまま樹神教に持っていくと!」

「こ、拘束とかしないといけないのでは……」

「ゲンドウさんはワープゲートを作ってくれればいいので!」

「わ、わかりました!」


ゲンドウさんが死の土スートゥ様に言われるがまま、樹神教に通ずるワープゲートを作り出した。私も指示に従い能力でこの事を樹神教に連絡を始める。死の土スートゥ様は、このまま五体満足で持っていく訳にもいかないので、手足の自由をなくすため、両手両足の方も能力で壊しておくと言って、トガショウに再び近づいていった。


「悪く思うなよ……」


死の土スートゥ様がトガショウの腕を掴もうとした瞬間、熊の様な大きな手が、逆に死の土スートゥ様の腕をがっしりと掴んだ。その手の正体は首が無くなり、意識がないはずのトガショウの手だ。無意識に掴んだのだろうか、違う、もう既に顔の半分くらい再生していたのだ。そして、数分もしない内に完全に元の姿へと戻ってしまった。


「さっきはよくもやってくれたな……」

「ぐ、化け物が……」

「でも、おかげで頭が冷えたよ……」

「そりゃどうも、悪いが俺様の腕はなしてくんない?」

「ダメだね」


 パキパキパキ……


何か氷の様な音が聞えた後、死の土スートゥ様の悲鳴が轟いた。

死の土スートゥ様が掴まれている腕が凍っていたのだ。


「アンタが僕の頭を飛ばしてくれたおかげで新たな能力を発見したんだ。触れた物の熱を喰う能力を!」


まさか、ここに来て新たな能力に目覚めるなんて……

しかも、こんなに早く使いこなすなんておかしい。

こんなに複数能力を持っていることもおかしい。

でも、これでコイツが世界の意志に選ばれた者だと確信した。


そして私たち3人は、今絶望的な状況に置かれている事も理解した。

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