第177話 大地讃頌

 「倒してOKって随分と余裕じゃないか……」

サングラスの男はじりじりとこちらに近づいて来る。それに対して両脇のゲンドウとうさ耳女は、戦いに慣れてないのがビンビンと分かる。その場で心の奥底からサングラス男の事を応援しているだけって感じだ。つまりあの男さえ倒せばいいのだ。

「アンタこそ、そんなに近づいて大丈夫なのか?」

僕は負けじとサングラス男に言い返した。

「おう、負ける気がしないし。勝てる気もしないや。」

「え?」

男は訳のわからない事を言ってきた。

僕の反応を見て理解できていないんだろうと思ったからか、続けてその理由を言い始める。


「いや、今回君の事を捕まえに、誘拐しに来たわけよ。しかも、君の能力は馬鹿みたいに再生する能力でしょ?! あと、喰ったゼノの能力をコピーする能力。俺様が攻撃特化型ならアンタは防御特化型だ。戦いが長くなってもしょうがないじゃん?」

「そうだな、でもそれはアンタが僕の攻撃を食らわない前提だよな?」

「ん? そうなるな!」

「こっちは負ける気がしないし、勝てる気がするわ!」


四つん這いの態勢を取り、能力で手足を犬の足へと変えた。前に駆除した犬型のゼノの身体能力をコピーしたのだ。この姿で一気に死の土スートゥの目の前まで特攻する。死の土スートゥも予想以上の速さに驚いた様だ。先程までのクールぶっていた死の土スートゥの顔が少し崩れた。僕は狂犬の様な鋭い前足を死の土スートゥの顔に喰らわせようと跳びかかった。

その攻撃を死の土スートゥは華麗にかわした。ついでに僕の顔を掴もうとしたのだろうが、小指だけが少し触れただけで不発に終わった。

お互いの攻撃が失敗に終わり、しばらく沈黙と睨み合いが続いた。


「これは予定より手こずりそうだ。」

死の土スートゥの顔から余裕の表情がなくなり、ここからは全力だと言わんばかりの真顔がサングラスをかけていても伝わってくる。向こうは僕の能力の事については知っているだろう。対して僕は相手の能力の事はらない、初手が失敗に終わって、相手が油断しなくなった今は無策に特攻はできない。

だが僕の特攻攻撃は無駄ではなかった。さっきの攻撃で相手は近接攻撃がメインがと分かった。遠距離の攻撃があるのなら近づく前に、一発でも撃つもんだから。僕の顔に触れようとしたから、触れたら発動する能力なのだろう。


 何方にせよ、相手の能力がわからない以上、ここは慎重に……


僕は両手の指先をタコの様な触手に変えた。触手はびよーんと何倍もの長さに伸びて、うねうねと自分の意志と関係なく自由に動いている。

「うお、触手プレイでもする気か!」

「気持ち悪い……」

うさ耳女に気味悪がられてしまった。敵とは言え結構ショックだ。

だから自分でもあまりこの技は使いたくは無かった。


 僕は腕を鞭を振るように大きく動かした。そうすると指先から生えた触手も遠くの方へ伸びていく。伸びた触手は途中から僕の意識とは関係なく動き出して、死の土スートゥに襲い掛かる。

「くそ、厄介なたこ足だ。」

しかし、死の土スートゥはあえて触手攻撃の中へと突き進んで来た。両手で攻撃を受け流しながら近づいて来る。その姿は歴戦の武闘家の様だ。軽い動作で僕の腕をさばいていきながら、しかも、僕の足を捻じり切るサービス付きだ。


 なるほど、これがヤツの能力か……


男の手が僕の触手に触れた瞬間、その個所から雑巾を思いっきり絞って、千切れるぐらい捻じれていった。そしてとうとう、加減の知らない力で僕の触手は捻じり切られてしまったのだ。


 僕は触手をトカゲのしっぽの様に切り離し、肩から手の甲にかけてびっしりと魚の鱗のような物を生やした。その後、鱗を弾丸のように相手に目掛けて飛ばした。

「おいおい、何でもありかよ! 大地讃頌 グラウンド・クロス

死の土スートゥは無数に飛んでくる弾丸に対し、手を床につけて、ちゃぶ台をひっくり返す勢いで上へと上げた。するとちゃぶ台ではなく床が飴細工みたいにぐにょんと伸びて、大きな壁となり僕の攻撃を防いだのだ。


 ヤツの能力がおおよそ分かった気がする。触れた物を捻じったり、形を変えたりする能力。この床の様に形を変えて留めておくことも出来るし、僕の触手みたいに無理やり形を変形させて壊すこともできるんだろう。


 なら遠距離でガンガン攻めるのみよ!

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