第175話 部屋に渦巻く煙とCO2

 半人半獣の怪物は、兄キラヨシツグを鋭い目で睨み付けている。いつでも喉笛に喰らい付けるように低い姿勢で構えている。その間にもレオンだった怪物は大きくなっている。あの臆病者のレオンの面影はほとんど無くなっている。


グルゥォァァァァー


怪物は耳を塞ぎたくなるほど大きな咆哮を放った。

一瞬の怯みを怪物は逃さなかった。

兄に鋭利な爪で襲い掛かってきたのだ。

しかし、鋭利な爪は兄の顔、ほんの1㎝の所で止まった。


「何とか、針金行使ワイヤーアクションが間に合ったか……」


じっくり怪物の体を見ると、兄の能力で作られたワイヤーが、怪物の体中に巻かれている。少しでも動くとワイヤーで体中切り刻まれるというか、小指一本も動かせない程にしっかりと全身をガッチリと巻いている。

「動くと血だらけになるぜ! なーんてカッコいい台詞言いたかったのだが、こいつらゼノは再生能力と欠損なんてお構いなしの諸突猛進野郎だから、しっかりと縛っておかないと……」」

「レ、レオンのやつはもう元に戻れないのか?」


仲が良かったわけではない、喋ったり会話したりしたのもここ最近、つまりレオンがゼノに変えられてからだ。多少、頭が樹神教に侵された状態だったが、ヤタレオンそのものが失っていたとは思えない。


「一応、厳重に隔離することになるな。まあ、運が良かったら戻れるかもって感じだな。あまり期待はしない方がいいぞ……」

「……そうか」

「……コウキ、お前自分が思っているほどクズじゃないぞ」

「お、そう思う? だよな~みんなクズクズ言い過ぎだよな!」

「あ、クズであることに変わりないからな!」

「……」






 灯りのない薄暗い部屋に私はいる。

ここは……研究所?

でもこんなに汚かっただろうか?

ホラーゲームみたいに色んな備品が壊れて散らかっている。

血がべっとりとそこら中の壁についている。

私以外に生物の気配がない

寂しいとか、悲しいとか、そんな感情が湧かない……


「あ、あの人は……」


白衣を羽織った男性がいる。

同じ研究員のサイトウさんだ。

私たち2人はここ研究室に籠っている者同士

後ろ姿でも簡単にわかる。


「もう、サイトウさんったらボ~っとしちゃって♡」


私は彼の肩を叩いた。

しかし、反応がない……


「おやおや~、どうしましたか? 実験でショートしちゃいましたか?」


私は何故こんな事をしているのだろうか?

この空間に、この状況に、疑問を抱かないのか?


「もしかして、私に照れてます? もう、ムッツリ♡」


そう言えば私ってこんな感じのキャラだったけ?

最近、研究も楽しくないし

そもそも何のために研究しているんだっけ?



「もう、全然反応ないんだから! サイトウさん」


私は彼の前に立った。

彼は惨たらしい姿をしていた。

獣に切り刻まれたような傷から、内臓が飛び出ている。

立ったまま死んでいた。


「サイトウさん、反応なし! 次に行きましょ♡」


私は何を言っているのだろう……

いつの間にか、私の目の前に大量の死体が並べられている。


「皆、反応なし、おや、アナタは成功なのね!」


私は一匹のトカゲを手に取った。

しかし、何処からともなく現れたお母さんに取り上げられてしまった。

お母さんは取り上げたトカゲを私の頭の上で握り潰し始めた。


 ブチブチ……


嫌な緑の体液が全身を包み込んだ。


もう、研究材料がない……


お母さんは私の事をじっと見ている。


どうしよう?


そうだ!


私の体で実験してみよう!

私は目の前にある大きなお肉を頬張った。

その後、身長と体重を毎日日記に記録していくのだ。

毎日記録していく

身長は伸びないけど、体重は重くなっている。

ちょっと恥ずかしい……

私にかかった緑の液体が黒い色に変わった。

そのせいかな?









 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


私は目が覚めた。

はっきりとしっかりと覚えている。

悪夢程、嫌な記憶程、人間と言う生き物はおぼえているものね。


「アオバサユリ研究員、どうかしたのか?」

私の突然の声に見張っていた職員が声を掛けてきた。

私は大丈夫ですと伝えた。

「そうか、寝ている間に侵入者が現れたらしい。しかも相手は樹神教の戦闘員、もう何人かはやられっちまっているそうだ。まあ、ここは普通は入ってこられない場所。それに敵の目的はトガショウらしい。ホント運が良かったよ……」


 トガ、ショウ……


「トガ君……」


トガ君が危ない目に遭っているらしい……



 助けに行かないと……

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