第174話 仲直りかよ!
「まったく、どうしたらいいもんかね……」
戦闘係Bに向かっている中、自分はどう立ち回れば良いのか考えている。本職は世界樹対策課の人間であるが、樹神教の事を裏切ってしまったら殺されてしまう。
「対策課の味方をしている雰囲気を出して、樹神教の邪魔はしないようにしよう。」
本当にめんどくさい事になってしまった。
こんなはずじゃなかったのに……
ヒカルさんが無理難題を
樹神教の潜入なんてことしなければこんな事には……
今更後悔しても仕方のない事に自分は腹を立てている。
色々と考えている間に、いつの間にか戦闘係Bにたどり着いていた。
もうみんな集まっているだろうか?
「今日二度目のお早うございまーす! いったい何なんですかね……」
白々しい挨拶を言った。
自分は今回の事件の内容は知っている。
何故なら、自分は共犯者なのだから。
「おう、遅いな……」
「え?! 兄さん?」
戦闘係B班の部署にいたのは、本来居るはずのない自分の兄、キラヨシツグだった。ヒカルさんや他のメンバーの姿が見当たらない……。自分の中で焦りと言う水がコップに満タンに注がれた気分だ。今にも溢れそうで不安定だ。
「ど、どうしたんだよ……。ほら、今大変な事になっていて早くしないと死人が……」
「ああ、そうだな……。早く敵を倒さないとな……」
「おう、倒しちゃおうぜ!」
「……なあ、なんで今回の事件の事について知っているんだ?」
「え? そ、それは来る前、ヒカルさんから連絡があったから。」
「ヒカルさんは事件の内容に関してはお前に伝えていないはずだが?」
「そ、それは……」
「事件の事を知ってなきゃ死人がなんてセリフ出てこないと思うんだが?」
しまった……墓穴を掘ったか……
「コウキ、お前が裏切っていることは知っている。でも、それは樹神教に脅されて仕方なくやってたんだろ?」
兄は今まで聞いたことのないトーンで自分に優しく問いかけてくる。
「ヒカルさんから聞いたよ、樹神教に潜入した時に脅されたんだろ。ヒカルさんも今回の件が終わったら改めて謝るって、無理な事を頼んでごめんなさいって」
「……」
「支部長に一緒に謝ってやるから」
ここまでバレているのならもう仕方がない。
自分は洗いざらい今回の件について兄に喋った。
「なるほどな、ヨシ分った! 兄さんに任せな! お前の事は私が守ってやる。ワンピースのエースの様にな!」
「兄さんそれ死亡フラグ、エースは頂上戦争で死ぬから。」
「そ、そんなマジレスするなよ」
「あーあ、なんか気が楽になったわ! ありがとな兄さん」
「ああ、それはそれとして……」
兄は能力で自分の腕を縛った。
「え?!」
「当たり前だろ、一応裏切者なんだから!」
「おいおい、マジかよ」
「まあ、一度失った信頼を得ることは難しいから覚悟しとけよ! 今日に関してはお前は大人しくしとけ。死ぬ気で頑張れ、骨は拾ってやる。」
「あ、死ぬこと前提かよ……」
「しかし、ヤタ君のやつ遅いな~」
「え? レオンも呼んでいるのか?」
「ああ、彼の事も知っている。彼の今の状態も……」
「そ、そうなのか……」
どうやら自分は泳がされていたらしい。もしかしたら、自分の部屋に隠しカメラでも取り付けられているのかもしれない。そう考えると少し気味が悪くなってきた。
ん?
じゃあ何でこの騒ぎが起きる前に未然に防がなかったのだろう?
コンコン……
ドアのノックする音が鳴った。ゆっくり、自身のなさそうな感じでヤタレオンが入ってきた。
「あ、あの~」
「やあ、おはよう、じゃないねこんばんは! ヤタ君!」
「は、はあ……」
「単刀直入に聞きたいんだけど、君は敵かな、味方かな?」
「も、勿論、味方ですよ!」
「じゃあ、樹神教の悪口言ってよ! 特にサクヤって奴? あの阿婆擦れの……」
兄さんの言葉にカチンときたのか、レオンが兄さんに突然襲い掛かってきた。
しかし、攻撃は兄さんに届かず、代わりにレオンの腕が吹っ飛ばされていた。兄さんの目にもとまらぬ攻撃にも驚いたがそれよりもレオンの腕からほとんど血が出ていない、トガさん並みに身体の再生力が強いのか、いや切断されてから直ぐに肉を硬くして止血したんだ。だから血がほとんど出ていない。
だがそんな事、いくら再生能力が高い能力者でも普通できない。そう、本当にレオンのやつは人間じゃなくなってしまったのだ。
獣の様な唸り声を出し、兄を威嚇している。体が徐々に大きくなっていき、全身から硬そうな毛が生えてきている。まるであの姿は……
「狼人間……」
目の前にレオンの姿はいなかった。
いるのは自我を失った哀れな人狼、ゼノだ。
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