第43話 赤子の様に
「ユズキさん! そんな奴に負けないで下さい!」
カンダさんは恐怖で身体を震わせ、涙を流しながら私の心に響かせてきた。
「だから、私なんだって……あれ?」
私の瞳から一滴の雫が零れ落ちる。
「なんだろ……急に眼から涙が出てきた。泣き上戸かな?」
その後、ガクッと膝から崩れ落ちた。糸を切られたあやつり人形のように、ぐにゃりとその場に倒れ込み、殺意は徐々に薄れていった。
「なにこれ? 急に悲しくなってきた……」
こみ上げてくる思いを抑えきれず、私はボロボロと大粒の涙をこぼした。
手であふれ出てくる涙を拭いても拭いても変わらず、いつしか私は声を出して泣いていた。赤子のように顔をぐしゃぐしゃにしながら……
わんわんと赤子のように顔を真っ赤にして鳴く私を、カンダさんは母親の様によしよしと、抱きしめて慰めてくれている。
そこにはもう、鬼の姿は見当たらなかった……
「ごめんなさい、わたし」
「別に何かしたわけではないのですから、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」
「うう……うわああああん」
「んっ?! ど、どういう状況?」
遅れてユミさんがやってきた。どうやら、あの状態から回復して助けに来たらしい
「ハイノメさん! 大丈夫なのですか?」
「なんとかね、アンタたちこそ大丈夫なの? そしてミナはどうしてそんなに泣いているの? まさか! あの男が!?」
「いえ違います」
カンダさんはきっぱりと否定した。
「そう、ならいいけど……お母さん」
「やめてください」
「うお! あそこに倒れてんのあの男じゃん あんにゃろキツーイお仕置き食らわせてやる」
ユミさんはそう言ってあの男の方へと向かっていった。
気絶している男のそばに立ち、何か考え事をしたのか数分フリーズしていた。
その後、能力で男の全身を覆い隠し、ゆっくりと宙に浮かせ運び出した。そして、無言で私たちの前に戻り、泣きじゃくる私を励ましながら車の方へ三人は向かった。
地上が厚い闇に閉ざされる中、私は疲れたからか車内でウトウトとしていた。
今回仕事の件とプラスの事件で私たちの表情は、三日三晩荒野を彷徨った旅人のように荒んでいた。
眠気がぼんやりと膜のように心を覆っていた。
「さあ、もうすぐ着きますよ」
運転しているカンダさんが私たちを優しく呼び起こすように教えてくれた。
「んん? もう着いたの?」
「いえ、もうすぐです。あと、10分程ですかね……」
「そう、着いたら教えて~」
そう言った後、ユミさんは限界ギリギリまで二度寝する小学生の様に、また眠りに入った。
「まったく、この人は……まあ、今回大変だったのでいいですが……」
カンダさんが大きくため息をつくも、すこし微笑んでそのまま車を走らせる。
「ユズキさんは大丈夫ですか? もしあれでしたら、着いたら起こしますよ。」
「いえ、もうすぐなので降りる準備します。続きは早く帰ってベットの上ですることにします」
「そうですね、私もすぐに床に着きたいです。なので、できれば研究所の人たちに合わないようにしないと!」
「アハハ! 確かに」
「フフッ さあ、着きますよ! ユズキさんハイノメさんを叩き起こしてください!」
「了解です!」
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