第42話 狂気
赤く染まり不気味に微笑む鬼、目の前には命乞いをする醜い男。
「さて、どうしようか……散々絞めてきたんだから絞殺? いえ、それだと面白くない……」
「すみませんでした! 許してください! 何でもしますから!!」
「じゃあさぁ……醜い悲鳴聞かせてよ」
私は何を言っているんだろう。
すごくハイになっているのかな……
「ぎゃあああああ」
男の悲鳴は静寂な世界を一滴のどす黒い真っ赤な絵の具で塗りつぶした。
気付けば男の腕は折れていた……
「アハハ! 右腕の関節増えちゃったね」
なんで私笑っているんだろう……
「ゆ、許してください……この能力のせいで気味悪がれ、避難区画にいられなくなったんです。 つい出来心ですみません、すみません」
「そんなこと知ったことじゃないわ! ほら醜いモノはどうやって鳴くんだっけ?」
「は、はい?」
私はそう言って、男のもう片方の腕も折った。また悲鳴が周りを真っ赤に染め上げる。
「ぎゃああ じゃないでしょ? ほらほら豚さん! 元気に鳴いて!」
「あああ、ぶ ぶ ぶひいい……」
「上手上手!」
これが私?
「ぶひい ぶひい」
男は顔をグシャグシャにしながら泣き叫び続けた……
プライドとか尊厳とか捨てて、必死に助かろうと
「うるさいわね、そろそろ飽きたわ」
「ぶ、ぶひ!? ぶひ、ぶっ!」
私は男の首を掴み持ち上げていた……男の方が体格は大きいのに片手ですんなりと持ち上げられた。満面の笑みを浮かべて男を絞め殺そうとしていた。
ああ だれか私を止めて……
「やめてください!」
後ろで声がした……カンダさんだ。
「あ、カンダさん! もう少し待ってください。いま、この豚さんを絞め殺すので」
「こ、殺しはダメです! どうしたのですか!?」
小鹿のように足をプルプル震わせながら、勇気を振り絞り、私のことを必死に止めようとする。
「どうもしてないよ、これが私…… ユズキミナよ」
違う! こんな姿私じゃない! こいつは誰?
「嘘です ユズキさんはそんな人ではありません。早く彼女を返して下さい。」
彼女はそう言い放つと、右手に隠し持っていたナイフを向けてきた。
「はあ~、そんなものじゃ私に傷一つ付けられないよ。対策課は出来たばかり、警察みたいに護身用の銃持ち歩く許可が、まだ出てないもんね。まあ、だとしても結果は変わらないと思うけど……」
「そうですね、日本じゃまだです。でも武器が問題じゃない! 私の覚悟の在り方が大切なんです。」
「何言ってんの?」
彼女の眼は迷いのない覚悟を決めたものだった。
いつのまにか足の震えも治まっている。
「ブヒッ!」
私は男を放り投げ、男の足の関節を壊し逃げられないようにした。
もう、悲鳴は響かなくなった……
「あのさぁ、なにがしたいわけ? 私は私って言ってるじゃん!」
「いえ、あなたは ユズキミナ ではありません。早く出っててください化け物」
「なるほど……覚悟ね。よくわかったわ 死にたいってことが」
? え?
私 何言って……
「無駄死にね、命大切にした方がいいよ…… まあもう、死ぬからこんなこと言っても意味ないんだけど♡」
ゆっくりゆっくりとカンダさんの方へと歩み寄る。
カンダさんの瞳の中には、お楽しみが増えて不敵な笑みを浮かべる私の姿が映っていた。
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