第39話 女王様が行く

 男は鼻の下を伸ばして、恥じらいでいるユミさんの胸元を凝視した。

いつも強気でカッコいい彼女でも、首筋まで真っ赤にして、なかなかブラジャーのホックを外すのをためらっている。それに苛立ったのか、もしくは早く拝みたかったのか、男は声を荒げた。


 「おら、早くブラもとるんだよ!」

彼女は手を背中に回してブラジャーのホックをはずし、乳房を覆い隠すようにしてブラジャーを取った。

先程まで強気だった彼女の姿はなく、何とも言えぬ甘美な哀しさと羞恥、侮辱感を漂わせ、しっとりとした女の情感となって男を更に興奮させた。

「うう……」

「ほら、下も脱ぐんだよ」

彼女は右手で乳房を覆い隠し、前かがみになって片膝をくの字に曲げて、左手でパンツをズリ下げていく。

「おいおい、何やってんだよ!」

彼女は乳房と股間を手で必死に覆い隠し、その場にしゃがみこんでしまった。

まだ、足首の所にパンツを絡ませたまま……

「あーもう、しゃあねぇ手伝ってやるよ」


 男はそう言うと、私の拘束を解きユミさんの方へと向かった。もう我慢できない子供の様な姿は、人質の事を忘れるほど欲望にまっすぐで気味が悪かった。

「おら、来てやったぜ。後はそのごついマスクを外してもらうからな。これから咥えるのに邪魔だろ。」

「……サイテー」

男の目の前が突如として煙に覆われた。

「あっつ! なんだこれは?!」

灰色の拘束グレーアウト

煙は男の全身を包みガッチリと固め、一分と掛からない内に全く動かなくなるほど強力だった。

「アンタみたいな、不細工に私の顔見せるわけないでしょ。」



 「ユミさん! すみません、私のために」

「いいのよ気にしないで! まあ、キモイおやじだったね。」

ユミさんは何事もなかったかのように、すくっと立ち上がり、下着をつけ始めた。

「たーく、タダで私の裸見やがって! 本当だったら一発かましてやりたいとこだわ。」

「アハハ、大丈夫そうで何よりです。」

「まあでも、まんまとお色気作戦に引っかかってくれて助かったわ。こうも上手くいくとは思わなかったけど。さて、私の煙は持続力がないから、車にある拘束具でさっさとこの変態を縛っちゃおう♡」


 車に戻ると落ち着きのない様子のカンダさんが迎えてくれた。

「お、お二人共大丈夫なのですか? わ、わたしどうしたらいいのか……」

「落ち着きなって! 敵は捕まえたんだし」

「ぜ、全裸マスクになってましたけど……」

「それ以上言うと、あんたも拘束するわよ!」


 車の中には対ゼノ用の猛獣に使うような拘束具しかなかったが、性欲の獣にはお似合いだろうと、ユミさんは上機嫌でそれを手に持ち、男の方へと戻って行った。その後ろ姿はまるで、お仕置きしたくてうずうずしているお嬢様のようだった。


しかし、急に拘束具を持ったユミさんの足が止まった。


 これから能力を解いて、男を拘束するんだ。男は煙の影響で気絶しているから一人で大丈夫!って、ユミさんは言ってたけど……


 なんだろう、このもやもやした感じ……


 「どうしたんでしょうか? ハイノメさん、動きが止まった?」

「え! た、確かに。何かあったのでしょうか?」

まるで金縛りにでもあったかのように、ピッタリと止まている。

私たちは不審に思い、ユミさんの方へ向かった。万が一、戦うことになったら必要だと思いお酒を少し持って、能力者でないカンダさんも、その辺にあった木の棒を持って、いきなり襲われても大丈夫なよう準備万端だ。他人が見たら、私の姿は緊急事態なのに片手に一升瓶を持ったヘンテコ女に見えるんだろう。

「だ、大丈夫ですよ! 何かあってもカンダさんは、私が守ります!」

「一升瓶片手に言われても……」


 一歩ずつ、慎重に近づきユミさんの近くまで辿り着いた。

「は、ハイノメさん? 何かあったのですか?」

不安による緊張で身を震わせながら、カンダさんはユミさんに聞いた。でも、すぐに返事は来なかった。しばらくしてからだ、ユミさんの口から出た言葉は

「あ、ああ……」

まるで、なんとか力を振り絞って出したような声だ。

「ゆ、ユミさん! どうしたのですか?」

私はただ事じゃないと思い、彼女の正面に立ち状態を確認した。


 よーく、しっかりと見ないと気づけなかった。

まるで、ナメクジが通ったような跡が、彼女の全身を覆ていたのだ。しかも、ぬめぬめした透明な液体は、ゆっくりとうごいているようだった。

「に、にげ……て」

彼女の口から絞り出された言葉は限界だった。そして、その原因が分かった。

首元だけ、謎の液体が分厚く固まっていた。まるで、ローションの様なそれは彼女の首をぎゅっと絞めているように見えた。

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