第40話 穴
「な、何これ?!!」
私は思わず声を荒らげた。あの強いユミさんがやられている。
透明な液体は私の存在に気付いたからか、ユミさんの首をより強く締め付けた。
「ぁ…ぅ…」
彼女の声は弱くなり、顔は段々と猩猩色に鬱血していく。
このままじゃ死んじゃう!
どうにかして助けないと!
私は無我夢中で、彼女にまとわりついている液体に掴みかかり、引きはがそうとした。しかし、液体なので掴もうとしても掴めない。実体のないものに対して、私は無力だった。
「どうしようどうしようどうしよう……」
私は焦っていた。
ユミさんが死んじゃう? 私が無力なせいで?
何のためにいるんだろうわたし……
パンッ
私は自分の両頬を力強く思いっきり叩いて活を入れた。
何やっているの私!
このまま何もできずにユミさんを見殺しにしてたまるもんですか!
私は落ち着きを取り戻し、まず周囲の状況を確認した。
そもそもこの状況を作ったであろうあの男の姿が見当たらない……
この気持ち悪い液体は、どこか遠くから遠隔操作しているのかしら?
いえ、その可能性はないはず 何故なら私たちが車に戻り、拘束具をとり、ここに戻ってくるまでにその様な動きはなかった。もしそうだとしても、ユミさんが見逃すはずがない。だとすると、あの男はまだ近くにいる?
私は次にユミさんの状態を確認した。彼女は彼女はもう限界寸前だ。早く何とかしないと! ダメダメ 焦ってはダメ! また、考えなしで行っても何も変わらない。まず彼女の首周りにまとわりついている液体! これをどうにかしないと…… 火を使う? いえ、ユミさんの背中の火なんて関係なしに、こいつはまとわりついてる。それに車に戻ってライターを探して戻ってくる時間なんてない。
! 「なにかしら」
最初に見たときは気付けなかったが、よくよく見ると液体は彼女の首元だけじゃない! 薄っすらとだけど、彼女の身体を舐めまわすように水の線が、まるでナメクジが通った後の様な道があった。彼女の首の液体の塊から出ているそれは、彼女の首から下へ、そして足元の小さな穴へと続いていた。
「この穴……」
私は恐る恐る穴の方に手を突っ込んだ。穴の中はぬめぬめで気持ち悪かったが、今の私にとっては特に気にならなかった。そして、中に何か硬い石の様なものがあるのを感じた。
私が穴の中の謎の物体の存在に気付くのとほぼ同時に、ユミさんにまとわりついている液体が、私の方へと跳びかかってきた。
「きゃああ」
女々しい叫び声を叫びながら、私はぎりぎりのところで、何とかかわすことができた。液体の塊は、明後日の方へ飛んで行った後、木にぶつかり、ボッテっとパイを壁にぶつけた様な重い音を立てて下に落ちた。
「あ、危ないところだった……」
「ユ、ユミさんは……」
ユミさんの方へ視点を変えると、謎の液体から解放され、仰向けで倒れている彼女の姿が映っていた。
「ユミさん!」
私は急いで彼女の安否を確認した。
意識は無かったが、息をしていたので取りあえず助かった……
でも、急いで車に戻ってちゃんと診ないと!
私が緊張から解き放れて胸をなでおろしている中、あの液体がこちらの方へと向かってきた。また、ユミさんを狙ってきているのか……
液体は目のないミミズみたいな動きで、手探りで私たちを探している様だった。
私はこのチャンスを逃さなかった。急いで車へ向かい、そこで待機していたカンダさんにユミさんを預けた。
「ご、ご無事で何よりです」
「はい、ユミさんは! ユミさんは大丈夫なんですか?」
「命に別状はないです。取りあえず大丈夫でしょう。」
「よかった……」
ヒリヒリと神経を震わせる不安感が無くなり、ホッと体中がほぐれるように安心する。
「あの男は……一体何者なのでしょうか?」
「わかりません……でも、あの小さい穴に何かあるのは確実です!」
「小さい穴?」
「……私確認しに行きます!」
「ちょっと、ユズキさん危険です! 応援を呼びましょう。ハイノメさんも戦えない今、得策ではないです。」
「そうですよね……確かに私では心無いです。でも、今ここでこいつを捕らえないと他の方が被害にあう!」
そう言い放ち、私は謎の穴の場所へと戻る。
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