第38話 差別の片鱗

 地を塗りこめたような不気味な夕焼け……

何かが起こりそうな感じ……

それとも今の私の気持ちを表しているのかも……


 デコボコ道が車内を揺らし、疲れた私の身体を揺さぶる。

「はあ、ねぇ見た? 区画長の息子の顔! 最初会った時と全然違かった。まるで化け物でも見ているように私のことを見てたんだけど」

「仕方ありません、普通超能力が使える人が現れたらそういう反応になります。人は自分とは違うものに恐れる生き物ですから」

「もしかして、アンタも!」

「んなわけないでしょうが!」


ユミさんはジンエイさんに対しての愚痴が止まらなかった。でも、確かに世界樹の根の駆除が終わった後、彼の態度は素っ気ない感じ、というか人として見ていない感じというか、とにかく冷たかった。まるで中学生が近寄りたくない人に対して、冷たい態度をとってしまう感じだった。


 「今後このような事が増えていくと思われます。ゼノのこと、そしてあなた方能力者の存在が世界中に知れ渡るのも時間の問題かと」

「そうなってくると、世界中大パニックね! あ、もうなっているか。デッカイ木のおかげで!」

「それ以上のパニックが起きると、上は考えていますよ。なんせ人を食う化け物ですから……まあ、噂はもう広まっていますが」

「いつ公表するのやら、ゼノのこと、私たち能力者の事……」



 「ストップ!」


 ユミさんの突然の声に驚き、カンダさんは急ブレーキをかけた。

原因はすぐに分かった。目の前に倒れている人がいたから!


「あ、ありがとうございます。危うくゴールドじゃ無くなるとこだった。」

「そんなことはいいから、ミナ! あの人を助けに行くよ! カンダさんは、そのままそこで待ってて」

私とユミさんは、倒れている男性に駆け寄り生存確認をした。目立った外傷はなく、脈拍もある。


 なんだろう、顔色も特に悪くない……


私は油断していた。てっきりこの人は被害者で悪い人ではないはずと……

倒れていた男性は、油断している私の首を強く掴んだ。


「ミナ!」

「おいおい、動くんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか?」

「あ、がっ」

男はそう言って一層私の首を強く締めてきた。声を上げることすらできないほどに

「何が目的なの? こんなことをして」

「なあに、ただ食料やら色々と欲しいだけさ」

「避難区画に行けば、炊き出しとかあるけどそれじゃダメなの?」

「ああ、だめだね。そんなことより ほら! はやく車から食料もってこい!」

ユミさんは男を睨み付け、カンダさんのいる車へ向かった。



 「ユズキさんは大丈夫ですか?」

「ええ、今のところは……隙を見てアイツを捕まえる」

「気を付けてください。どこかに仲間がいるのかもしれません」


ユミさんが車から取ってきた食料を男のそばに置いた。その時の顔が、獲物を狩る獣の様な顔つきだった。たぶん隙を見てこの男を捕らえるつもりだ。その為には、人質になっている私が邪魔だ。何とかしないと……


「なんだよ、これっぽちかよ……」

「しょうがないでしょ。必要最低限しか用意してなかったんだから。文句があるなら今すぐ避難場所に行って炊き出し貰ってきたら?」

「うるせぇ! いられないから こうやっているんだよ!」

「その様子だと、何かやらかしたのね。アンタひとり? 寂しいんだ」

「ごちゃごちゃとうるせぇ! 口元隠しやがって!」


 恐らく男は一人……


 ユミさんは続けて男の注意を逸らすため、会話を続ける。

「どう、欲しかったモノはあった? 非常用の缶詰めばかりでしょ♡ もし、最初の避難区画に居づらいのなら、別の場所紹介してあげようか?」

「いらねえよ、てか水多くないか?」

「あ、それお酒」

「さけぇぇ!? おいおい、何でこんなもんあるんだよ。贅沢しやがって」

「どう、ご満足頂けましたでしょうか? 頂けたらその子を放して」

「いいや、まだだね。 そうだ! おれは寂しいんだよ。 女を見るのも久しぶりなんだよなぁ~」

男はユミさんの身体を下から上にかけて、舐める様に見始めた。

「何かお望み?」

「なーに、せっかく酒も入ったんだが……ツマミがないんじゃなぁ」

男は飢えていた。反吐が出るほどに……

「とりあえず、上脱いでくれよ」

「……それで満足出来るなら」

ユミさんは男に言われるがまま、ゆっくりとスーツのボタンを外し始める。

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